須田桃子『捏造の科学者 STAP細胞事件』(2014)


奇妙な事件だった。
スキャンダルの嵐が去って、
あらためて事件の全貌を考える機会になった。
須田桃子『捏造の科学者 STAP細胞事件』(2014)を読む。


捏造の科学者 STAP細胞事件

捏造の科学者 STAP細胞事件


これほどデータ管理のずさんな論文が
なぜiPS細胞発見をしのぐ世界的発見と誤認されたか。
理研理化学研究所)、CDB(発生・再生科学総合研究センター)、
ノーベル賞候補学者、ハーバード大学教授、早大博士号、ネイチャー。
小保方を主著者とした論文は
アカデミアの錚々たるブランドをパスして発表された。


ブランド名を数多くぶら下げたニュースを
名だたるメディアが報道する。
こうした情報に僕たちは無抵抗になりやすい。
まして山中教授のiPS細胞研究がノーベル賞を獲っている。
疑問を持つことをつい放棄する。



最後の第12章「STAP細胞事件が残したもの」が印象深い。
小見出しから引用する(p.361-377)。


  まず不正の有無の調査を優先させるべきだった
  シェーン事件(2002年米ベル研究所で発覚した
  史上空前規模の論文捏造事件:引用者注)との比較
  チェック機能を果たさないシニア研究者
  一流科学誌の陥穽
  学生時代からの不正行為
  理研とベル研の類似性
  シェーン事件との最大の違い
  ネットによるクラウド「査読」



  (写真:須田桃子 文藝春秋ホームページから引用)


須田は早稲田大学物理学専攻修士
2001年毎日新聞社入社。
2006年から同東京本社科学環境部記者。
iPS細胞については開発当初から継続的取材。
科学的素養があり、理研関係者、科学者への質問が適切で
僕たち一般読者との架け橋になってくれた。
こうした調査報道が
日本の大手新聞メディアでも可能であることを本書は証明した。
単行本にまとめる機会を作った
文藝春秋国際局・下山進、坪井真ノ介の功績も大きい。


第46回大宅賞受賞(単行本部門)
審査員は佐藤優梯久美子片山杜秀
正賞100万円。副賞・日本航空国際線往復券。


(文中敬称略)