松原隆一郎評:エマニュエル・トッド/大野舞訳『第三次世界大戦はもう始まっている』(文春新書、2022)

クリッピングから
毎日新聞2022年7月16日朝刊
「今週の本棚」松原隆一郎評(放送大教授・社会経済学)


『「歴史の終わり」の後で』
フランシス・フクヤマ著、山田文訳(中央公論新社・2530円)
第三次世界大戦はもう始まっている』
エマニュエル・トッド著、大野舞訳(文春新書・858円)



二冊の著作を対比して論じた評者の意図とは外れてしまうが、
本稿では引用者の関心がより高かったトッド著作評のみ引用する。
併せて松原さんの寄稿全文をお読みください。


  一方、ウクライナアメリカとイギリスの手を借り武装したのは
  クリミア、ドンバスの奪還のためとするのがE・トッドで、
  看過できないロシアが手遅れになる前に叩(たた)いたのが
  今回の侵攻だという。
  アメリカ離れを勧める「日本核武装のすすめ」
  (『文藝春秋』2022年5月号)を軸に、
  「第三次世界大戦はもう始まっている」
  という刺激的なタイトルで情勢を診断している。


  1990年代にロシア経済を再建させるため顧問となったのが
  アメリカの新自由主義者であったが、
  逆にロシアは経済のみならず国家まで破綻の危機に追いやられた。
  それを立て直したのがプーチンで、
  若者はエンジニア志向、女性の大学進学率は男性の1.4倍。
  かつてソ連崩壊を予言した際に用いた
  「出生1000件当たり乳幼児死亡率」は
  ロシア4.9に対し、アメリカ5.4と逆転している。


  弱体化したアメリカがイギリスとともに
  ウクライナ人を「人間の盾」に取り、
  血を流さずに戦っていると解釈している。
  (略)


  ロシアへ制裁しなかった国の分布地図が驚きで、
  父権性の強い地域にかなり重なる。
  自由民主主義の理想は家族幻想に勝てるのだろうか。