村上春樹『女のいない男たち』(文藝春秋、2014)


どうしてこういう表題で連作を書き始めたのか、
「文藝春秋」初出時に読んでいたとき、不思議に思っていた。
村上にしてはあまりに平凡に思えたのだ。
村上春樹『女のいない男たち』(文藝春秋、2014)を読む。


女のいない男たち

女のいない男たち


収められた6作品は以下の通り。


   ドライブ・マイ・カー
   イエスタディ
   独立器官
   シェエラザード
   木野
   女のいない男たち


通して読んでみると『木野』が一番心にひっかかった。
「まえがき」を引用する。


   『木野』は推敲に思いのほか時間がかかったこともある。
   これは僕にとっては仕上げるのがとてもむずかしい小説だった。
   何度も何度も細かく書き直した。
   ほかのものはだいたいすらすらと書けたのだけど。
                         (p.9)


物語の謎のほとんどは最後まで読者には明らかにされない。
主人公・木野の泊まるビジネスホテルで
深夜、部屋のドアをノックし続けるのは誰か。
(あるいは、人でなければどんな存在か)


木野の伯母から木野を見守るように頼まれた
神田(かみた)とは何者か。どんな能力を持っているのか。
根津美術館裏手のバー「木野」を取り囲んだ蛇の正体は。
消えてしまった灰色の猫の行方は。
雨の夜に木野と一夜を共にした女は何者か。


どれもこれも未解決のまま、物語が終わる。
行間を読もうにも手がかりがなさ過ぎる。
けれど、心に余韻は残る。


人は誰も心を病んでしまう危うさと紙一重
現実の日々を送っている。
そのことが読み手にしみじみと伝わってくる。


(初出:「シェエラザード」「MONKEY」2014、
「女のいない男たち」書き下ろし、他4作品「文藝春秋」2013-14)