だめだ。クリントン大統領に聞け(小渕恵三)


スクラップブックから
朝日新聞2018年9月13日夕刊
「平成とは—取材メモから」(第29回)
20世紀のうちに(7) 「だめだ。大統領に聞け」



   日米関係を取材していると、
   時の首相が、「米国の意向」を説く役人に対して
   「米国の誰だ」と切り返す話を時折聞く。
   米政府の役所に聞いただけで、
   それを米大統領の考えのように官僚が語るのを
   首相が見抜くのだ。


   2000年の沖縄サミット(主要国首脳会議)を決める過程で、
   首相の小渕恵三もそうだった。
   (略)
   小渕は「沖縄はだめか」と粘る。
   外務省幹部は「沖縄には複雑な問題があり
   大統領訪問には望ましくない」と「米国の見解」を述べた。


   小渕「米国の誰だ」
   幹部「国務省です」
   小渕「だめだ。クリントン大統領に聞け」


   翌日の訪米までに大統領の考えを確かめなければ。
   日本大使館は手を尽くした。
   駐米大使だった斎藤邦彦(83)によると、
   首相の最初の訪問地ロサンゼルスに入ったところへ
   国務副長官タルボットから電話があった。
   「沖縄サミットに同意する」。
 

   斎藤が官邸に連絡すると、
   板挟みだった官房長官野中広務の声に
   安堵(あんど)がにじんだ。
   小渕は沖縄開催と決め、1週間の訪米へ。
   ホワイトハウスクリントンの反応は
   「ベリー・ベリー・グッド・アイデア」だった。
                     (藤田直央)



2000年の沖縄サミットが決定した土壇場には
こんなドラマがあったと取材班は書く。
首相にしかできない決断だったことが記事から伝わる。