スクラップブックから
朝日新聞2019年5月16日朝刊・読者投稿欄
宝物はいつか消えるものなのよ
中学生 佐野達哉(静岡県 14)
僕が小学3年の頃、
「宝物はなに?」と駄菓子屋のおばさんに聞いた。
おばさんは一瞬こまったような表情をしてから言った。
「戦争で死んでしまった彼だよ」と指さしたのは、
男のひとが写った写真だった。
ギャーギャー叫んでいた僕たちは一瞬にして静まりかえった。
思いきって聞いてみた。
「他に宝物はないの?」
おばさんは泣きながら言った。
「私に残されたのはこの店だけだよ。
彼が最後にくれた手紙には
『一緒にお店で働こうね』と書いてあったわ。
でも、かなわなかった」と。
僕は励まそうとして言った。
「たくさんお菓子を買って、お金持ちにしてあげるよ」。
すると、おばさんは笑顔で言った。
「ありがとう。宝物はいつか消えるものなのよ。
でも彼との別れで、いろいろな出会いがあったわ」
おばさんは立ちあがり、奥から1枚の写真を持ってきた。
「覚えてる? あの時はまだ身長低かったわねー」。
僕たちとおばさんでとった写真だった。
僕は今でも、あの時の会話が忘れられない。
僕が小学生だった約半世紀前、
町には駄菓子屋があって、こどもたちのパラダイスでした。
いまはすっかり絶滅してしまいました。