酒を飲まない井の頭五郎が、
仕事の合間、街のどこかで空腹を満たす。
選ぶ店は現実に存在している店だ。
原作・久住昌之/作画・谷口ゴロー『孤独のグルメ』(扶桑社文庫、2000)を読む。
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全18話の漫画を読み終え、
原作者・久住の「あとがきにかえて—釜石の石割り桜」を読み始める。
これが拾いもの(失礼!)だった。
引用してみる。
岩手の釜石に行った時も、旅館の夕食を断り街へ出たはいいが、
例によってひとり夕暮れの街をウロウロと迷い迷っていた。
秋。ちょっと寒い。
(p.194)
酔いが体を一巡し、足の疲れ、
ひとり旅の緊張感がじーんとほぐれてくる時間である。
それにしても、酒を飲まない井の頭五郎はこの幸福感のかわりに、
何をもって旅の疲れや緊張感をほぐされるのだろう。
たぶん、井之頭五郎(ママ)にとっては
食べることそのものが癒しなんだろう。
それもひとりで、誰にも邪魔されず。
誰にも気を使わず空腹という自分の肉体的精神的マイナスを埋めてゆく時、
彼はいつも「自由」になれるのだろう。
現代のめまぐるしい日常生活は、
もともと一個の自然である人間のあらゆるバランスを崩し、
言ってみれば不自然な状態を我々一人ひとりの肉体精神に強いている。
みんな本来のニュートラルな自分を見失っている。無理してる。繕っている。
井の頭五郎は、食べる時、孤独に食べる時、つかの間自由になり、
自分勝手になり、時間や社会にとらわれず幸福に空腹を満たすことで、
現代の原始人と化して、歪んだ自分を癒やしているのではないだろうか。
(pp.204-205)
なるほど、久住のこの文章のリズムを
作画の谷口が的確に漫画として表現しているのか。
井の頭五郎が立ち寄る店は実際にある店ばかりだから、
その店がまだ営業を続けていれば読者が追体験することもできる。
それもこの作品の面白さのひとつだな。
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1997年に扶桑社から出版された単行本『孤独のグルメ』に一部加筆。
続編もあり、ロングセラーの作品だ。
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