クリッピングから
毎日新聞2022年1月10日朝刊
「悼む」山本文緒(やまもと ふみお)さん 作家
膵臓(すいぞう)がんのため 2021年10月13日死去・58歳
「人から目を逸らさず書き続け」
2001年に「プラナリア」で第124回直木賞を受賞。
生きている人間が背負う膨大な孤独と、
だからこそ他者へと向かう嵐のような慕情を、
虚飾のない筆致でえぐり出すように書いた。
しかし03年にうつ病を発症。
治療期間を経て07年に「再婚生活」を刊行、執筆を再開した。
13年に刊行された15年ぶりの長編小説「なぎさ」は、
従来の鋭い作風と人々の脆(もろ)さへの深いいたわりが溶け合い、
社会という雄大な景色を丸ごと一つ手渡すような、
圧倒的なスケールの作品だった。
20年刊行の地方都市を舞台にした激しく美しい恋愛小説
「自転しながら公転する」で
島清恋愛文学賞、中央公論文芸賞を受賞。
誰よりも他者を見て、自分を見て、人間の欠けた部分、
脆い部分、美しく在れない部分から
微塵(みじん)も目を逸(そ)らさず書き続けた。
(略)
(作家・彩瀬まる)
(彩瀬がデビューした賞の審査員を山本が務めた)