100分de名著/吉本隆明『共同幻想論』(講師:先崎彰容/全4回)

NHK Eテレ「100分de名著」7月に放送した
吉本隆明『共同幻想論』(講師:先崎彰容)全4回(計100分)を見る。



テキストブックから引用する。


  しばしばこの本は、非常に読みにくいと言われます。
  なぜでしょうか。
  冒頭部分から読み進めていくと、
  途中で読者は「なぜ今、この文章を読まされているのだろうか」
  「この引用はなにを言いたいために引かれているのだろうか」という疑問に陥ります。
  著作全体を流れる大きな物語、一貫した筋が非常につかみにくい作品なのです。
  (略)


  そのために、今回は、二つのことを行います。
  まず第一に、徹底的に序文にこだわり、吉本思想の核心をつかみだします。
  具体的には文庫版(引用者注:角川ソフィア文庫改訂新版)に付されている
  三種の序文を中心に読むことで、問題意識をはっきりさせていきます。
  三つの序文とは、順に「角川文庫版のための序」、「全著作集のための序」、
  そして単行本刊行時の「序」です。



  第二に、吉本隆明の戦争体験を考察します。
  戦時中、すでに学生(高等工業学校生)だった吉本は、
  読書に基づく徹底した思索の結果、
  戦争を肯定し国家のために死ぬことも覚悟していました。
  しかし敗戦により、自分が確信を持って抱いた死生観は
  全否定されてしまったのです。


  この深刻な体験は、吉本のなかに
  ことばにならない複雑な陰影を刻印しました。
  この影を一つひとつ文字に書きなおすことで、
  なんとか精神の均衡を保つことができた。
  よって、この『共同幻想論』にも
  戦争体験から導きだされた思索が、色濃く見てとれます。


  以上の二つの論点を押さえておけば、
  樹海の中でも方向感覚を失わず、
  吉本と共に思索の杜(もり)を楽しく散策できるはずです。

                  (pp.13-14)


共同幻想論

共同幻想論


本書のような本格的な学術書を読むときには、
先達のこうした道案内が有効だ。
思索の樹海をさ迷う際の地図、コンパス、ナイフを事前に準備できるからだ。
だからと言って講師の考えを丸ごと呑み込む必要はない。
方法論を身に付けた上で、是是非非で講師にも講義にも臨めばよい。


毎回25分の番組は実に丁寧に作られている。
先崎講師の解説に対する伊集院光、安倍みちこの受け答えが率直だ。
わかったふりをせず自分の言葉で語っているから、
僕たち視聴者の理解を助けてくれる。


柄本明の要所要所の朗読が力強い。
挿入されるアニメーションも工夫されていて退屈させない。
ただ見ているだけで門の入り口までは確実に連れて行ってもらえる。
そこで「ああ、面白かった」と一区切りつけるもよし。
原典読破に改めて挑むもよし。


僕は後者の道を選びたい。
吉本の杜のもう少し奥深いところまで
自分で行って見てみたいのだ。


新版 吉本隆明1968 (平凡社ライブラリー)

新版 吉本隆明1968 (平凡社ライブラリー)

  • 作者:茂, 鹿島
  • 発売日: 2017/11/10
  • メディア: 文庫
書評サイトAll Reviews友の会企画「先崎彰容x鹿島茂」対談が参考になった。無料公開終了)