頻繁に人に会わなくていい気楽さが続いてほしい感覚(斎藤環)

クリッピングから
毎日新聞2020年8月1日朝刊
シリーズ 疫病と人間
精神科医 斎藤環・筑波大教授


精神科医斎藤環さんが
「臨場性の暴力」という考え方を披露している。
コロナ禍で人と人が直接会えないことのマイナス面を論じる人は多いが、
「人と人が直接会うこと自体に暴力が潜んでいる」との指摘が新鮮だった。


  (略)
  オンラインでのやりとりが増えたコロナ禍で改めて見えてきたのは、
  人と人が直接会うこと自体に潜む暴力—「臨場性の暴力」と、
  その暴力をどこまで許容できるかという個々人の感受性、認容性が
  多様であるということだ。


 「暴力」というと強い言葉だが、
  善しあしでなく、自他の境界を越えて迫ってくる力を暴力と呼ぶ。
  あるいは重力と言えるかもしれない。
  発達障害やある種の認知特性を持った人にとって、
  臨場性の暴力は以前から自明のことだった。
  (略)


  コロナ禍で人と直接会うことが少なくなる中で、程度の差はあれ、
  臨場性の暴力を多くの人が実感できたはずだ。
  たとえ相手が自分の好きな人だったり会いたい人だったりしても、
  いざ会う直前になると憂鬱になる。
  会ってしまえば楽しく話ができるのに、なぜか気が重くなる。


  こうした私的な感覚を私が今年5月にブログで発信すると、
  驚くほど多くの人の共感を得た。
  感染が再拡大する中、いいかげん元の日常に戻ってほしいという気持ちと、
  頻繁に人に会わなくていい気楽さが続いてほしい
  という相矛盾する感覚は、多くの人が抱いているのではないか。
  (略)

  
                           【聞き手・塩田彩】


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斎藤さんは臨床医を務めながら、
以上の仮説を組み立てている。
臨床に基づく洞察に意表を突かれた。


その世界の猫隅に

その世界の猫隅に

  • 作者:斎藤環
  • 発売日: 2020/04/02
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


[2020.9.7追記]


斎藤環さん、与那覇潤さんの共著
『心を病んだらいけないの?』(新潮社刊)が
第19回小林秀雄賞を受賞しました。
おめでとうございます。


  主催:新潮文芸振興会
  選考委員:片山杜秀國分功一郎関川夏央堀江敏幸養老孟司
  授賞理由:
  書名をはるかに超えた、射程の広い見事な「平成史」。
  本書自体が「オープンダイアローグ」であり、
  一方通行ではない言葉の運動から生まれる、現代の俯瞰図である。


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小林秀雄賞は過去に
茂木健一郎『脳と仮想』(第4回、2005)
水村美苗日本語が亡びるとき—英語の世紀の中で』(第8回、2009)
加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(第9回、2010)
森田真生『数学する身体』(第15回、2016)
などの作品が受賞。
僕も数冊、読んできました。


あらためて歴代受賞作品リストを眺めると、
吉本隆明夏目漱石を読む』(第2回、2003)
小澤征爾村上春樹小澤征爾さんと、音楽について話をする』(第11回、2012)
など他の文学賞には見られない作品が並んでいました。


夏目漱石を読む (ちくま文庫)

夏目漱石を読む (ちくま文庫)