「100分de名著/中井久夫スペシャル」プロデューサーAのこぼれ話

2022年12月放送「100分de名著/中井久夫スペシャル」
(指南役:斎藤環)を再視聴する。
斎藤執筆のテキストも併読&再読。



番組ホームページからプロデューサーAの言葉を引用する。



  あなたのための一品料理

  「中井久夫」……という名前を目にしただけで、
  高揚感やわくわく感をとめられなくなってしまいます。
  一度でも中井久夫さんの文章に触れて魅了された経験のある人には、
  この気持ちをわかっていただけるのではと思います。
  何を隠そう、私は大学二年生のころからの中井久夫さんの大ファンなのです。
  なので、今回の「こぼれ話」は極私的なものになってしまうかもしれません。
  ご容赦ください。


  斎藤環さんに「中井久夫スペシャルをやりませんか?」
  とオファーさせていただいたときには
  「ぜひお引き受けしたいと考えています」と即座にお返事をいただきました。
  これが2019年9月のこと。
  つまり今回の企画は実に3年越しで実現したというわけですね。
  あらためて考えると感慨深いです。


  そして、企画化にめどがついたときにも、
  斎藤さんからのお返事の中に「いよいよですね」との言葉が。
  シンプルな言葉に見えるかもしれませんが、
  その中に、「中井久夫に関する仕事ができること」への
  斎藤さんの高揚感を感じ取りました。
  私の「微分回路」がやや暴走していたかもしれませんが(笑)。
  (略)


  「分裂病と人類」「治療文化論」
  「『昭和』を送る」「戦争と平和 ある観察」を取り上げることは
  最初から斎藤さんと私の間で意見は一致していました。
  残る一冊は迷いました。


  斎藤さんからご提案があったのは「徴候・記憶・外傷」。
  これも素晴らしい論文でしたが、
  やや難易度が高いのと、中井さんの業績を
  この5冊で全部俯瞰できるのかという問題が残りました。
  それほどに膨大な業績のある方なので、
  何を選んでも取りこぼしてしまいそうです。


  私の方からは、中井久夫さんのお人柄、人間性をお伝えしたく、
  「こんなとき私はどうしてきたか」を提案しました。
  とてもよい本ではあるのだが、
  中井さんのオリジナリティの高い業績の中で考えると、
  「ならでは」感が少し弱いのではないかという議論になりました。
  しばらくやりとりを続ける中で斎藤さんが提案してくださったのが「最終講義」。


  一読、納得しました。
  中井さんが生涯をかけて取り組んだ
  「統合失調症」に関する研究、臨床のエッセンスがほぼ詰まっている。
  そして言葉の端々から、中井さんのお人柄もにじみ出ている。
  中井さんの世界観に入門するには最適な本だと直観しました。


  打合せの全てが楽しかった。
  こんなに中井さんのことをいろいろな人たちと議論し合えるのは
  本当に稀有な体験でした。
  惜しむらくは、この番組を当の中井久夫さんにご覧いただきたかった。
  番組テキストの制作がこれからいよいよ始まるというタイミングの8月に、
  中井さんの訃報を聞いたときには、言い知れぬ喪失感に打ちのめされました。
  (略)