佐藤優/斎藤環『反知性主義とファシズム』(金曜日、2015)

ここまで言っちゃっていいのかな、
と時々ハラハラしながら頁を繰っていた。
佐藤優斎藤環反知性主義ファシズム』(金曜日、2015)を読む。


反知性主義とファシズム

反知性主義とファシズム


「おわりに」(佐藤優)から引用する。


  知的に興奮する対談だった。
  斎藤環氏と話していると、既視と未知の感覚が私の心の中で交錯する。
  (略)


  ナショナリズムファシズムの問題について、
  この対談で私は斎藤さんから多くのことを学んだ。
  今後も学び続けていきたい。
  現下政治エリートの特徴を斎藤氏が「ヤンキー」と特徴づけたのは(ママ)慧眼だ。
  私の場合、「反知性主義」というような月並な言葉しか思い浮かばなかった。


  斎藤氏は、ヤンキー政治家がファシズムを展開することはできないと考える。
  私は、霞ヶ関(官界)で「自分はきわめて有能だが、
  それが組織によって正当に評価されていない」という不満を持つ、
  能力は低いがヤル気のある官僚がヤンキー政治に利用価値を見だすと(ママ)、
  日本でもファシズムが成立すると考えている。
  その受け皿となる政治的愚連隊もすでに存在している。
  (略)

                                (pp253-260)


一読すると佐藤さんが押し気味で、斎藤さんが受け気味に思えたが、
ところどころ再読し、「いや、待てよ」と考え直した。
「はじめに」(斎藤環)から引用する。


  佐藤さんと私は、世代がけっこう近いわりには、
  住んできた世界も知的トレーニングの背景もかなりかけ離れています。
  外交官と精神科医という違いはもちろんですが、
  例えば私は世代的にも「サブカルの申し子」を自任しています。
  世間的にも「やたらサブカルを語りたがる精神科医」くらいの認識かと思いますが、
  佐藤さんは意外なほどその方面については禁欲的です。


  われわれ前後の世代の物書きは、多かれ少なかれオタク的な人間が多いのですが、
  佐藤さんにはそうした臭いがあまり感じられません。
  むしろ同世代には珍しいほどオーソドックスな教養人、という印象すらあります。
  (略)


  おそらく本書の最大の読みどころは、
  佐藤さんと私の意見がもっとも対立した『風立ちぬ』論
  (引用者注:宮崎駿監督のアニメーション映画作品)でしょう。
  佐藤さんは本作を全面的に批判します。


  しかし私は、この対談の時点ではジブリ作品中三位という高評価で、
  祝言の夜の菜穂子は「描かれた女性」のアイコンとしては最も美しい、
  とまで絶賛しました。
  今にして思えば、さすがに「三位」は褒めすぎでしたが、
  肯定的評価は今も変わりません。
  (略)

                             (pp008-009)


風立ちぬ [レンタル落ち]

風立ちぬ [レンタル落ち]

  • 発売日: 2014/06/18
  • メディア: DVD


主に受けに回ってみたと見えていた斎藤さん
精神科医としてのスキル、経験を存分に活かして
佐藤さんの考えの奥深いところ(毒性も含めて)を引き出していたのではないか。
そう仮説を立ててみると、この対談の面白さが二重三重に広がるような気がしてきた。


本書の構成は以下の通り。


  第一章 AKB最終原論
  第二章 『つくる』の解釈に色彩を持たせる
  第三章 『風立ちぬ』の「ふやけたファシズム
  第四章 日本にヒトラーは来ない

        (編集:『週刊金曜日』副編集長 伊田浩之、担当 赤岩友香)



ヤンキー化する日本 (角川oneテーマ21)

ヤンキー化する日本 (角川oneテーマ21)

  • 作者:斎藤 環
  • 発売日: 2014/03/06
  • メディア: 新書


第19回(2020年)小林秀雄賞受賞作品。
 選考委員/片山杜秀 國分功一郎 関川夏央 堀江敏幸 養老孟司(五十音順))