社会の問題は構造的に考えなければならない(斎藤幸平)

クリッピングから
朝日新聞2019年10月31日朝刊
オピニオン&フォーラム 
再びマルクスに学ぶ
大坂市立大学准教授 斎藤幸平(さいとう・こうへい)さん


    —「生態系が崩壊しようとしている」
     「行動を怠る大人は悪だ」と訴えた16歳の環境活動家、
     グレタ・トゥンベリさんの国連でのスピーチが世界で共感を呼んでいます。


  「日本では、『環境破壊を憂える少女の勇気ある表明』という文脈で
   報道されがちですが、そこに込められた強い政治的主張は注目されていません。
  『大人は無限の経済成長というおとぎ話を繰り返すな』
  『今のシステムでは解決できないならシステム自体を変えるべきだ』
  という彼女の発言は、資本主義システムが深刻な異常気象を引き起こしており、
  経済成長が必須の資本主義のもとでは気候変動問題に対処できないという
  メッセージなのです。
  (略)


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  「資本主義は『希少性』を人工的に作り出し、
  人々をたえざる労働と消費に駆り立てるシステムです。
  家のローン、子育て、老後の生活費……。
  常に足りない、だからもっと働こうとする。
  本来、技術発展でこれだけ生産力が上がったのだから、
  労働時間を減らしてもよいはずなのに、です」


     —資本主義の矛盾を指摘したマルクスは、
     地球環境問題を考えていたのですか。


  「そうです。マルクス資本論の本質は、
  人間と自然環境の強い結びつきにあることが、最近の研究でわかってきました。
  マルクスは、人間の生活の本質は『自然とのたえざる物質代謝』にあると考えていた。
  人間が労働を通じて自然に働きかけ、受け取り、廃棄する循環プロセスです。
  ところが資本主義ではこの人間と自然の関わり合いが徹底的にゆがめられ、
  両者の破壊が起こります。
  これは資本主義である以上、不可癖だというのがマルクスの主張です」
  (略)


     —欧米の左派のような、社会のありようを
     根底から変えようという議論は、日本ではまだ広がりを欠くように思います。


  「日本には、『政治主義』とでも言える強固な考え方が根付いているためでは
  ないでしょうか。選挙を通じてしか、社会は変えられない、と。
  ただ、社会運動によって政治や経済を変えることもまた民主主義なのです」
  (略)


     —ところで、そもそも斎藤さんは、
     なぜマルクスに関心を持ったのですか。


  「大学に入学した2005年は改革ブームの時代でした。
  格差や貧困は自己責任の問題として語られ、
  かくいう私も漠然と他の人に対し『もっと頑張ればいいのに』と思っていた。
  そんなとき読んだのが、マルクスでした。
  社会の問題は、身の回りの人間関係や自分の意識の問題としてではなく、
  もっと構造的に考えなければならない。
  そう教えてくれたのです。
                         (聞き手・高久潤)


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マルクスの『資本論』を読み直すことで、
地球環境問題を構造的に捉えられるという斎藤幸平の視点が新鮮だ。
記事を一読したとき、聞き手・高久記者は斎藤准教授の論点に
腹落ちしていないために質問をしているのかと思えた。


時間をかけて再読してみると、
読者が疑問に思うであろうことを記者が先回りして、
准教授の論点をより明快にしていることが読み取れた。
斎藤と高久の共同作業によるメッセージなのだと理解した。
斎藤の編著書を読みたくなりすぐに図書館で予約した。


資本主義の終わりか、人間の終焉か? 未来への大分岐 (集英社新書)

資本主義の終わりか、人間の終焉か? 未来への大分岐 (集英社新書)

大洪水の前に: マルクスと惑星の物質代謝 (Νuξ叢書 3)

大洪水の前に: マルクスと惑星の物質代謝 (Νuξ叢書 3)

いま生きる「資本論」

いま生きる「資本論」


斎藤幸平の名前はどこかで見覚えがあった。
そうだ、マルクス・ガブリエルの著書
『なぜ世界は存在しないのか』を熱烈に推す手書きPOPを
紀伊國屋新宿本店売り場で見かけたのだ。
これで、点と点がつながった。
この人だったのか。
デジタルノート記事をリンクしておく。


なぜ世界は存在しないのか (講談社選書メチエ)

なぜ世界は存在しないのか (講談社選書メチエ)



16歳グレタ・トゥンベリさん 温暖化対策で涙の訴え【全文】


追記(2019.11.4)


グレタさん、北欧理事会賞環境賞辞退。
SNSで「気候変動対策を求める運動に賞はもう必要ない」


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