荒木一郎『ありんこアフター・ダーク』(河出書房新社、1984/小学館文庫、2014)

荒木一郎『空に星があるように 小説 荒木一郎』(小学館、2022)
に続いて連読。
荒木一郎『ありんこアフター・ダーク』(小学館文庫、2014)を読む。


(装幀:和田誠


川本三郎(評論家)の解説から引用する。


  不良が輝いていた頃


  表題の「ありんこ」とは渋谷の道玄坂の右手、
  百軒店(ひゃっけんだな)と呼ばれる一角の奥に
  実際にあった小さなジャズ喫茶店の名前で、
  この小説はそこに集まる「僕」をはじめとする
  若者たちの青春を描いている。
  時代設定は昭和37年(1962)から翌38年(1963)にかけて。
  「僕」は19歳から20歳へと成長する。
  若者の成長物語にもなっている。


  俳優であり、歌手でもある荒木一郎
  昭和19年(1944)1月、東京生まれ。
  母親は女優の荒木道子
  私自身も昭和19年生まれ(7月)だが、
  この世代はのちの団塊の世代に比べると人数が極端に少ない。
  昭和19年といえば、戦時下だったし、
  しかも日本の敗色が濃い時代だったから
  出産率が下がったのも無理はない。
  (略)


  この小説は、オリンピック直前の
  いまは失われた東京の町の風景を実によくとらえていて、
  その点でも貴重な都市小説になっている。
  細部の充実が青春物語をしっかりと支えている。
  「ありんこ」のある百軒店界隈をはじめ、
  恋文横町(現在の109の裏手)、
  映画会社の大映の映画館があった大映通り(現在の文化村通り)、
  映画館のパンテオン
  渋谷駅とパンテオンのある東急文化会館を結ぶ高架橋、
  などいまは消えてしまった渋谷の町が優しくよみがえってくる。
  (略)


  そして、現在、この小説を読んでいて一番懐かしいのは、
  当時の東京は、まだ都電の走る町だったことだろう。
  「自家用車」を持つことになる「僕」だが、
  他方では、移動によく都電という路面電車に乗っている。
  都電は身近にあった。
  この小説が、波乱万丈でありながら、
  どこか牧歌的な雰囲気も持っているのは、
  ゆっくりと東京の町を走る都電の感覚があるためかもしれない。
  (略)


  この小説は、「青春」への、
  「不良が輝いていた時代」への、
  そして「都電が走っていた東京」への別れの歌になっている。

                        (pp.381-387)


    本書のプロフィール:

    本書は、1984年4月に
    単行本として河出書房新社より刊行された作品を
    初めて文庫化したものです。



(本書冒頭に「怪優」としての荒木一郎が登場する)