クリッピングから
讀賣新聞2023年2月14日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。
病歴は全てひらがなで書いておく
親しみやすい手紙のように
燕市 田巻由美子
【評】病名というのは難しい漢字が多く、
いかつい印象になりがちだ。
病歴も自分の一部として受け入れる気分が、
優しい下の句から伝わってくる。
当日になって呼ばれた合コンで
梱包資材みたいにわらう
東京都 カラスノ
【評】強烈な比喩。必要とされてはいるが、
必要のされ方が本体とは違うのだ。
クロッカスの歌など聞こえない部屋で
ただ増えてゆくわたくしの家具
東京都 音羽 凜
【評】寺山修司の「きみが歌うクロッカスの歌も
新しき家具のひとつに数えむとする」が本歌。
甘い恋の気配もなく、歌も聞こえず、
本歌から引き算することで、
現実の寒々しさがいっそう際立った。