名前の印象からか、もっと年上の方だと思い込んでいた。
1964年東京生まれ。
現在、神田外語大学特任教授。
黒田龍之助『ロシア語だけの青春』(ちくま文庫、2023)
(『ロシア語だけの青春ーーミールに通った日々』(現代書館、2018)を読む。
(カバーイラスト/中村一般、カバーデザイン/小川恵子(瀬戸内デザイン)
「プロローグ 東京の真ん中にロシアがあった」から引用する。
1982年早春、午後六時の代々木(よよぎ)駅。
西口には予備校が林立し、専門学校や政治政党などもあって、
人どおりが激しく、賑やかだ。
それに比べると、東口はひっそりとしている。
小さな改札を抜ければ、すぐに急な下り階段がはじまる。
足元に気をつけながら下りてゆくと、やがて平らになるが、
しばらく歩けば今度は上り階段。
これを上がりきると、目の前を走る狭い道の向こうに
雑居ビルが立ち並ぶ。
正面に位置するのが、目指す建物だ。
入り口に扉はなく、いきなり狭くて古い階段である。
薄暗くて、入るのをちょっと躊躇(ためら)うが、
看板が出ているのだから間違いない。
勇気を出してまっすぐ十四段を上ると、
少し広くなっていて、そこでまた一段。
その先はさらに、狭い階段が続く。
どんなに細い人でも、ふたり並ぶのは無理だろう。
八段上がって、そこで方向を換え、さらに七段。
東口改札から数えて、いくつの階段を上り下りしたことか。
だが、たったこれだけの距離を進めば、その先はロシアだった。
ИНСТИТУТ РУССКОГО ЯЗЫКА <<МИР>>
ミール・ロシア語研究所。
わたしの母校である。
(pp.3-4)
編集:小林律子(単行本/現代書館元編集部)、河内卓(文庫)
写真提供:篠田英美
解説:貝澤哉
(ミール創設者で黒田の師、東一夫、東多喜子共著のロシア語教科書)