古賀史健『さみしい夜にはペンを持て』(ポプラ社、2023)著者インタビュー(聞き手:澤田聡子)

クリッピングから
読書サイト「好書好日」2023年10月20日
『さみしい夜にはペンを持て』著者・古賀史健インタビュー
(聞き手:澤田聡子)


(イラストレーション:ならの)


  ——主人公は「うみのなか中学校」3年生のタコジロー。
   クラスメートとの関係やヤドカリのおじさんとの対話を通して、
   タコジローの視点でストーリーが進みます。
   舞台を人間の世界ではなく、「海」にしたのは?

 
  打ち合わせのとき、
  編集の谷さん(ポプラ社一般書企画編集部の谷綾子さん)から、
  「古賀さんが書く『物語』が読んでみたいです。
  主人公はタコの男の子でどうですか」と提案されて。
  「え〜っ、無茶振りだよ〜!」と最初は驚きました(笑)。
  (略)

  執筆するとき心がけたのは、
  タコジローの目線で「書くこと」への疑問を掘り下げること。
  ヤドカリのおじさんの回答もぼくが考えるので、
  「自分に質問をぶつけて、自分で答える」という作業になりますが、
  タコジローとしての疑問をことばに書き表していくなかで、
  「こういうことを自分はずっと考えていたんだな」
  という気づきがたくさんありました。
  (略)


  ——「ていねいに書きなさい」と指導されてもピンと来ないですが、
    ヤドカリのおじさんのように
    「場面をスローモーションで再生して書いてみて」
    と言ってもらえるとすごく分かりやすい。

 
  これも書きながら試行錯誤して、出てきたことばですね。
  「情景が浮かぶように具体的に書けと言われても……」と悩む子たちに向けて、
  彼らの生きている世界のなかでイメージが湧くようにいろいろ考えました。
  「今日はアイスクリームを食べた。おいしかった」が「早送り」の文章。
  でも、アイスクリームを食べる場面を「スローモーション」にして、
  細かく区切って書いてみると、もっとおもしろくて自分らしい表現になっていく。
  (略)


  ——ヤドカリのおじさんとタコジローくんの対話で語られるのは
   「自分自身とどう向き合い、どう生きていくか」。
   大人にとっても難しい、哲学的なテーマです。

 
  自分が中学生のころを振り返ると、
  当時のぼくなりに一生懸命いろんなことを考えて生きていたと思います。
  村上春樹さんが『海辺のカフカ』(新潮社)を発表したとき、
  カフカ少年について
  「15歳でこんなことを考えている子はいないんじゃないか」
  という感想もあったそうです。
  それに対して村上さんは、
  「中学生を見くびっている。自分の中学時代を思い起こせば、
  これくらい世界を真剣に眺めていたはずだ」と反論されていて。

  本当にその通りだと思いますし、
  今回の本も中学生向けに書いてはいるけれど、
  「子どもだまし」には絶対にしたくなかった。
  「ここまで掘り下げて書いても、
  きっと読者である子どもたちはついてきてくれるはず」
  という信頼が根底にありました。
  (略)
 
  「note」に日々のことを書くようになって8年半くらいたちますが、
  やっぱり書きながら分かってきたことってたくさんある。
  タコジローくんの疑問も、ヤドカリのおじさんのアドバイスも、
  実際に日記を書いてきた経験から生まれたものなので、
  嘘やきれいごとは一切ありません。
  日記はとにかく続けることが肝心で、
  空振りでもいいから、毎日打席に立つ。
  そういうスタンスが、
  自分の文章のリズムをつくるうえでもいいんじゃないかな。
  (略)



    古賀史健(こが・ふみたけ)
    ライター

    1973年福岡県生まれ。出版社勤務を経て、1998年にフリーランスに。
    2013年に出版された『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)が
    40以上の国・地域で翻訳され、世界的ベストセラーに。
    ビジネス書ライターの地位向上への貢献が評価され、
    2014年に「ビジネス書大賞・審査員特別賞」を受賞。
    主な著書に『20歳の自分に受けさせたい文章講義』(星海社)、
    『幸せになる勇気』『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』
    (いずれもダイヤモンド社)など。


    澤田聡子(さわださとこ)

    ライター
    マネー誌、女性誌などの編集を経て、2013年よりフリーランスに。
    『最新のお金リテラシーが身に付く! 得するWOMAN講座』
    を日経WOMANで連載中。猫派、ビール党。