猪木武徳『戦後世界経済史』(2009)

僕が勤めている会社は霞ヶ関にほど近い場所にあるものだから、
近所に二三軒ある書店の品揃え、平積みの本は
他の街の書店とはだいぶん違う。
官僚たち必読の本がかなりの量で並んでいる。
いまだったら、民主党や鳩山総理、政権交代に関する本を山ほど見かける。



アマゾンなどのオンライン書店との違いは、
休憩時間や帰宅途上にふと覗いたときに
気になり買ってしまう本が見つかることである。
そんな本を仕事から解放された週末に読むことは
僕の無常の愉しみのひとつである。


戦後世界経済史―自由と平等の視点から (中公新書)

戦後世界経済史―自由と平等の視点から (中公新書)


まだ四分の一ほどしか読んでいないが、そうして偶然手にした
猪木武徳『戦後世界経済史ー自由と平等の視点から』(中公新書)は
買い物だった。著者の「はしがき」にこうある。


  本書の目的は、
  第二次世界大戦後から二〇世紀末までの世界経済の動きと変化を、
  データと経済学の論理を用いながら鳥瞰することにある。
  無謀な試みかもしれないが、全体を大雑把に見るということは、
  細部を正確に観察するのと同じくらい、時にはそれ以上に重要である。
                        (同書p.iより引用)



会社勤めで時間の融通がままならない身にとって
経済や歴史の細部を勉強する時間はそうそう取れない。
かと言って、やたらスキャンダラスなタイトルや見出しで
時流に迎合した書物、雑誌は少しも栄養分にならない。
読むだけ時間のムダである。



アカデミズムに生きる学者の洞察のエッセンスを分かりやすく、
かつ大部でない分量の書物で聴かせていただきたいというのは
市井に生きる人間にとって、きわめてまっとうで、
かつ、つつましい要望であると僕は考えている。



古今東西、優れた啓蒙書を書くことができるのが、優れた学者である。
自分が本質を理解していなければ、
他人に分かりやすく書くことはできない。


その点で、この本には随所に著者の洞察が詰まっており、
「脳の食べ物 (food fot thought)」には
もってこいの内容であるように思う。



本の腰巻きコピーもよかったね。
曰く、


  わたしたちは
  何を得て
  何を失ったのか


残る四分の三を読み進めながら、
著者と対話し自分で考えてみるのが楽しみだ。



ところで、新橋駅前にあった二階建ての本屋が
月が変わったらチェーンのスーツ店になっていた。
オンライン書店は確かに便利だが、
リアル書店を絶滅させることは危険であり
知的生活を後退させ貧しくする。
街の本屋でもお金を使おう。