年間240日、旅して仕事する人たち


全世界に100前後のオフィスを持つメガ・エージェンシー
(複数国で商売する広告会社)のクリエーティブの大親分、
チーフ・クリエーティブ・オフィサー数人に同じ質問をしたことがある。
「あなたは一年間にどれくらいの日数、出張しているのですか?」
期せずして同じ答えが返ってきた。
「年間240日。ほとんど空港で暮らしている(苦笑)」


彼らはその生活を少なくとも10年は続けていたから、
2,400日は自分の国以外の場所で仕事をした計算になる。
しかもその仕事は苦痛ではなく悦びであると口を揃える。



僕はこの9月、オーストリアリンツに始まり、
シンガポールを経て、中国・瀋陽まで旅した。
三回の出張でおよそ月の2/3を海外で仕事をしていた勘定になる。
いまではいったい身体が
どこの土地の時間に合わせて動いているのか分からなくなった。
これを毎月続けるのが「年間240日」のペースである。



空や陸を移動するだけで心身に負担があり達成感すらあるが、
それはまやかしに過ぎない。
本当の仕事は移動した先での活動であり、
旅自体を過大評価するのは間違いのもとである。
大親分たちがどれほどの意志力、体力で仕事をし続けるものなのか、
自分のたったひと月の体験からでも、うっすらと想像できる。



どの国、どの土地でも日本人が働き、
その国の社会、人間たちに貢献し感謝される姿を見てきた。
広告会社で働く僕たちにも
きっとまだまだできることが残されている。
広告にも、クリエーティブにも、メディアにも。
世界はおよそ誤解と困難でできているが、
同時に理解と解決も世界の構成要素であるには違いない。