伊坂幸太郎『モダンタイムス』(上・下)(2008/2011文庫版)


このところ中国史を中心に
ノンフィクションを読む機会が多かった。
その反作用で今度は小説が読みたくなり、
伊坂幸太郎『モダンタイムス』(上・下)を読了。
伊坂の作品は久しぶりに手にした。


モダンタイムス(上) (講談社文庫)

モダンタイムス(上) (講談社文庫)

モダンタイムス(下) (講談社文庫)

モダンタイムス(下) (講談社文庫)


上巻を軽快に読み進むと、
下巻の中盤あたりからこの作品は俄然面白くなる。
特定の悪人にではなく
システムに縛られ人々の思考が停止する。
善悪の判断があいまいになり
自我の拡大にのみ関心を持つか、はたまた虚無に襲われる。
現代社会に生きる我々の課題を
伊坂流のストーリーテリングで描いた作品に仕上がった。



どんなにシステムに支配されている社会でも
自分の周りを少しだけ変えることができる。
この作家の作品は読後感がよくて救われる。
主人公の妻・佳代子のキャラクター設定が秀逸。
文庫版では初出・単行本とは骨組みは変えずに改稿。


著者曰く、


  『モダンタイムス』は
   三年前(二〇〇八年)に発表した時から、
  「自分にしか書けない自信作だ」
   という思いがありました(絵に描いた自画自賛です)。
  「どうすることもできない」仕組みを、
   娯楽小説の形で表現できた、という思いが
   あるからかもしれません。
   それが、今回この改稿を行ったことで
   さらにベストの形になったと感じています。
   

          (文庫版あとがき p.455-456より引用)



思わず単行本と
読み比べたくなっちゃいますね。


                      (文中敬称略)