鈴木智彦『ヤクザと原発ー福島第一潜入記』(2011)


鈴木智彦『ヤクザと原発ー福島第一潜入記』を読む。
著者はヤクザ専門誌「実話時代BULL」編集長を経て
フリージャーナリスト。
暴力団幹部らに協力してもらい福島第一原発作業員として
内部に入り込む。現場からの迫真ルポである。


ヤクザと原発 福島第一潜入記

ヤクザと原発 福島第一潜入記


帯にこうある。


    「原発はタブーの宝庫。だからオレらが儲かる」
    (某地方の暴力団組長)


情報の隠蔽、データの改竄、
政治家や東電など大企業の行動・発言。
福島第一作業員の視点で原発問題の細部に光を当てる。
ヤクザと原発、ふたつのタブーが交差する現場であり、
あまたある報道で鈴木の視点は他にない視点である。
あるとき鈴木の身元が割れ解雇されルポは終わる。



エピローグで鈴木は語る。
確かに現場に潜入することで
これまで分からなかった細部はある程度分かった。
けれども、原発問題全体を覆う霧は晴れることがなかった。
真実をつかんでいるのは
ごく一握りの人間であるという結論である。
限られた情報源だけに頼って思考し行動することは危険だ。
現場で思考する鈴木の視点は貴重である。



世界は解読されることを待っているが、
解読する意志のない者には永遠にその姿を見せない。
MITメディアラボ石井裕副所長の講義を聴く機会があり、
あらためてそのことを確信した。
鈴木と文藝春秋の仕事に敬意を払いたい。


(文中敬称略)