鈴木智彦『ヤクザと原発ー福島第一潜入記』を読む。
著者はヤクザ専門誌「実話時代BULL」編集長を経て
フリージャーナリスト。
暴力団幹部らに協力してもらい福島第一原発作業員として
内部に入り込む。現場からの迫真ルポである。
- 作者: 鈴木智彦
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2011/12/15
- メディア: 単行本
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帯にこうある。
「原発はタブーの宝庫。だからオレらが儲かる」
(某地方の暴力団組長)
情報の隠蔽、データの改竄、
政治家や東電など大企業の行動・発言。
福島第一作業員の視点で原発問題の細部に光を当てる。
ヤクザと原発、ふたつのタブーが交差する現場であり、
あまたある報道で鈴木の視点は他にない視点である。
あるとき鈴木の身元が割れ解雇されルポは終わる。
エピローグで鈴木は語る。
確かに現場に潜入することで
これまで分からなかった細部はある程度分かった。
けれども、原発問題全体を覆う霧は晴れることがなかった。
真実をつかんでいるのは
ごく一握りの人間であるという結論である。
限られた情報源だけに頼って思考し行動することは危険だ。
現場で思考する鈴木の視点は貴重である。
世界は解読されることを待っているが、
解読する意志のない者には永遠にその姿を見せない。
MITメディアラボ石井裕副所長の講義を聴く機会があり、
あらためてそのことを確信した。
鈴木と文藝春秋の仕事に敬意を払いたい。
(文中敬称略)