会社と異なる生態系にて


ひとりで立ち飲みで呑んでいると
なんとなく見えてくる人間模様が面白い。
渋谷「冨士屋本店」は巨大カウンターが真ん中にあり
その周囲の壁際にもカウンターがある二重構造。
小劇場にいるかのように目の当たりに人間模様が見えるのだ。



となりのおっさんはベロベロになったお姉ちゃんを
それとなく口説こうとしている。
そうした酔っぱらいが大嫌いな女おかみは
さっきから機嫌が悪い。
左の角にはコロッケ、もろきゅうをつまみながら
洋書を読みふける初老の客がいる。
単行本だがはてなんの本だろう。
あたりの喧噪をものともせず読書に励んでいる。



さらに左の方ではなにやらミントの香りの葉がする煙草を
一本ずつ紙に巻いて愉しんでいる男の二人連れがいる。
「あら、いい香りね」
と戦場のような仕事の手を一瞬休めて
おかみが声をかける。
入り口付近の四人連れの客には
「煮込みと湯豆腐を二人前ずつ頼んで
 合併するとおいしいよ!」
とすすめる。
なるほど、会社同士だけでなく
煮込みと湯豆腐も合併することがあるのだ。



会社で普段知り合う人たちとは
ずいぶん異なる生態系がここにある。