坪内祐三『文庫本福袋』(2004/2007文庫版)


坪内祐三『文庫本福袋』を読む。
坪内は文庫連山へ向かうときの名シェルパである。
週刊文春』の連載コラム「文庫本を狙え!」で
僕はこれまで幾多の登攀ルートを教わった。



文庫本福袋 (文春文庫)

文庫本福袋 (文春文庫)


古典の碩学小西甚一の復刊名著『古文の読解』。
函館らしき街を舞台にした佐藤泰志
透明感あふれる短編集『海炭市叙景』。
毛沢東の影で共産党暗黒史を創り上げた男・康生を描いた
ノンフィクション『龍のかぎ爪 康生』。
どれもこれも面白く、
自分ひとりで本屋を探していたら巡り会えたかどうか。


古文の読解 (ちくま学芸文庫)

古文の読解 (ちくま学芸文庫)

海炭市叙景 (小学館文庫)

海炭市叙景 (小学館文庫)

龍のかぎ爪 康生(上) (岩波現代文庫)

龍のかぎ爪 康生(上) (岩波現代文庫)


本書は連載「文庫本を狙え!」の
第172回から第365回を集めた一冊。
年代で言えば2000年から2004年までに当たる。
時差で眠れぬ夜などに頁を繰っていると、
明治大正昭和の町並みや人の気配が近づいてくるような気がする。
あれも読みたい、これも読みたい。
孤独な文庫の散歩道を僕もひとりで歩いている。
とうに目的地のことなど忘れ、
道に迷うこと自体を愉しんでいる。



本は人を賢くなどはしない。
しかし、いまここにしばられる我が身に
束の間、想像力の翼を与える。
巻末に添えられた中野翠の解説文「ぴったりの靴」が、
この連載の仕事に巡り会えた坪内の幸運を的確に表現していて素敵だ。


(文中敬称略)