僕の英語勉強法ー英語とJOYの接点を見つける(第1回)


ふとしたきっかけから
社内の人事担当者が僕の英語勉強法をインタビューして
社内サイトに掲載したいと依頼してきた。
世の中も社もグローバル時代を迎え英語が必須となっているが、
海外に住んだり留学したりした経験を持たない社員が
どうやって英語力を向上したか他の社員の参考にしたいと言うのだ。


自分でもインタビューを受けるのは面白いと思い、
2時間に渡って問われるままに話した。
その原稿を書き起こしてもらい自分で再整理すると
400字詰め原稿用紙40枚を越える内容となった。



もしや、「デジタルノート」を訪問してくださる
どなたかの参考になるかもしれないと担当者に伺ったところ、
社内サイト掲載一ヶ月後以降なら
転載しても構わないと了解をいただいた。


という訳で「デジタルノート」に分割掲載することにした。
そもそもこうした原稿の需要があるのかどうか分からないが、
そこはそれ、なんでも実験してみたいのが僕の真骨頂である。
もちろん必要ない方は読み飛ばしてください。



  (2013年7月5日に実施した
   社内サイトの「英語学習法」インタビューの
   書き起こし原稿を大幅に加筆修正。
   同8月1日から社内サイトにアップロードした。
   担当者の了解を得て「中山幸雄デジタルノート」に転載。
   その際、ごく一部の文章の修正を行った。
   社内サイト掲載時に使用された
   参考図書画像の一部、TOEICスコアチャートなどは
   転載にあたり割愛した。2013年8月4日記)



★英語が堪能だった父の影響があった


  ●英語を勉強しようと思ったきっかけから
  お伺いできればと思います。


父の影響があったと思います。
僕の父は室内塗装の職人でした。
三代目として家業を継ぎましたが、
本当は学校の先生になりたかったと言っていました。


父は語学が堪能だったのです。
東京外国語大学に入学して中国語を専攻しました。
ところが、その時代は太平洋戦争が終わった直後で、
日本と中国の関係が悪かったんですね。



「中国語を習得しても仕事に就ける見込みがない」
と考えた父は東京外語大を中退し、
明治学院大学に再入学して英語を学ぶ方針に切り替えました。
それで父は中国語と英語が堪能でした。


道で外国人に話しかけられても少しも困らないし、
米軍ラジオ放送FEN(現在のAFN)を聴いていて、
寝言でも「This is Far East Network!」
(注:局のコールサインアナウンス)と言っていました(苦笑)。



小学生だったとき父に
「どうすればお父さんのように英語が話せるようになるの?」
って尋ねたんですね。
父の答えは「現在の中学義務教育で使う教科書、授業時間数、
教える先生の力量を考えるとそれだけで英語が話せるようにはならない。
英語は耳から学ぶといいんだよ。
NHKのラジオ放送があるから聴いてごらん」
ってアドバイスしてくれたんです。



僕が入学したのは近所の公立中学校です。
小学生のときから塾に通ったり、
家庭教師について英語を勉強するということはまったくなかった。
僕は父の教えに従って、
中学校に入学した年の4月1日から毎朝早起きして
NHKのラジオ英語講座「基礎英語」を聴くようになったんです。


それはそれは魅力的な世界でした。
学校で習う英語の時間とは違っていた。
日本人の先生の発音と違って、
ネイティブスピーカーたちの発音が聴けましたから。
朝聴き逃してしまうと昼や夜の再放送は必ず聴けるとは限らないから、
朝一番の放送が勝負でした。



しばらく勉強していると父はまた教えてくれました。
「発音記号を覚えてごらん。
発音記号と実際の音の関係が分かれば自分で辞書を引き、
知らない単語も発音できるようになる。
自分で語彙を増やしていけるようになるよ」。
これも学校では教わらない秘訣でした。


アルファベットと一緒に発音記号まで覚えると
自分の力で辞書を活用する道が開けるんですね。
言葉の意味だけでなく、音が分かるからです。
そうなれば言葉の海を自分自身で航行することができる。
これは楽しいことです。



そもそも僕は両親からただの一度も
「勉強しなさい」と言われたことがない。
でも、僕が知りたいことがあって尋ねると
父は教えてくれたんです。
いま思えば、それがどれくらいモチベーションを
阻害しないことに役立ったか。父に感謝しています。
自分で道を切り拓いていく悦びをなくさないためには、
周囲が教えすぎてはいけないんですね。


以来大学生になっても聴き続け、
途中社会人になって長いインターバルはありましたが、
直近の13年間はNHKラジオ講座に戻ってきました。
足掛け46年のリスナーという訳です。もうじき半世紀ですね(笑)。



(「ピーター・バラカン公式ブログ」より引用)


2006年にNHK・BS番組 “Weekend Japanology”
(注:現在は “BEGIN Japanology” として放送中)に出演しました。
主に海外の視聴者向けの英語放送です。
収録が終了した後、司会のピーター・バラカンさんに
「中山さんは海外はどこに住んでいたの?」と聞かれました。
「いえ、海外で暮らしたことは一度もありません。
学校もすべて日本の学校です。
英語はNHKラジオ講座で勉強したんです」と答えたら、
ピーターさんが驚いて、
「え〜!ホントに?NHKの人に教えてあげた方がいいよ。
番組のすごい宣伝になるから」と褒めてくれました。



NHKラジオ講座がなぜよいか


NHKの語学講座にはテレビもあるんですが、
僕は自分で受講してみて父が薦めたラジオが基本だと思っています。
どの言語も生まれたときは音です。
その音を表記しようとして文字が生まれます。
だから、音から言語を学ぶのはとても自然なことです。


テレビには映像が付いているので楽しいですが、
その分、耳だけから聴き取る訓練にはあまり適していません。
NHKの語学講座が実は高い水準にあることに
気づいていない人は多いですね。
公共放送なので、みなさん過小評価しているのかもしれない。



「中山さん、どうやって英語を学んだの?」と聞かれて、
NHKラジオ講座をずっと続けているんだよ」と答えると
たいがいひどくがっかりされるんです。
「100万円くらい払えば一ヶ月でペラペラになる秘密の学習法が
どこかにあるんじゃないか」と内心思っているらしい(苦笑)。
ラジオ講座は当たり前すぎて……
しかも、自分には続かなそうな気がする」と言われます。


  ●それって英語学習法を
  勘違いしている気がするんですけどね。


だから「時間をお金で買う」とか
「流しているだけでペラペラになる」などと宣伝して、
人の弱みにつけ込む英語商売が相変わらず多いですよね。
これって、太平洋戦争敗戦直後から手換え品換えあった商売なんです。
ああいうのは僕は全部ウソだと思っています。


第一、言葉が「ペラペラ」になるなんて気持ちが悪い。
どこまで学んだって言語は底なし沼です。
理解したと思った瞬間、足をとられて、また分からなくなる。
「ペラペラ」になるなんて表現自体がおかしいし、
ましてや「マスター」することなどできる訳がない。


  ●私もそう思います。



英語が身につく方法に近道はないですが、
英語を身につけない方法なら僕は知っています。
いつも方法ばかり探していて、
これは違う、あれは違うと探し続けていて、
お金は結構かけるのに地道な勉強を始めないという方法です(苦笑)。



僕は今年度上期は7講座聴いています。
「入門ビジネス英語」「実践ビジネス英語」「攻略!英語リスニング」
「英語で読む村上春樹」「まいにちドイツ語・入門編」
「まいにちドイツ語・応用編」「まいにち中国語」です。
アラビア語講座」は前から挑戦してみたくて、
まぁ、味見程度ですから数には入りません。


4月と10月の番組改編期には無料ガイドブックが発行されるので
すべての語学番組をチェックします。
自分の持ち時間のうち語学に当てられる時間を割り出して、
ラジオ付きICレコーダー「トークマスター」で予約録音します。



NHKの講師選択基準は厳しいと思います。
僕が聴いていて「工夫しているなぁ」と思う先生は
3年以上番組が継続していますが、
「そうでもないなぁ」と思った方は1年で消えていきます。


半年なら半年、1年なら1年のプログラムを
すべて完成してからでなければ
NHKは講座として採用しないとも聞きました。
先生方にとっては、きっと報酬はたいしたことないのでしょうけれど、
自分が試したい講義の実践の場なんです。
みなさん、自分の持ち味をフルに出して
勝負している講座がズラリと並んでいますね。



アカデミアの世界だけから講師を選んでいないのも
気に入っている点のひとつです。
「実践ビジネス英語」講師の杉田敏先生は
オハイオ州立大学を卒業後、ジャーナリズム修士号を取得。
「シンシナチ・ポスト」で経済記者、
電通バーソン・マーステラ取締役執行副社長を務め、
現在はPR会社「プラップジャパン」代表取締役社長です。


杉田先生は社長業と並行しながら、
すべてのスクリプトをいまでも自分で書いています。
架空のアメリカ大手企業を舞台に活躍する
日本人ビジネスマンが主人公の物語です。
先生のスクリプトは材料の仕入れ方が半端ではありません。



カンヌ国際フェスティバル・オブ・クリエティビティで
2009年に入賞したヒュンダイのキャンペーンを取り上げたこともある。
車を購入した顧客が失業したら販売会社がローンを肩代わりする
と宣言して話題になったキャンペーンです。
あるいはアメリカ社会のホームレス、ゲイを取り上げた
ビニエット(会話体の創作短編)もとても面白かった。
みなさん、そうしたトピックがNHKの語学講座で
取り上げられているなんて想像もしていないじゃないかな?


(つづく)