エズラ・F・ヴォーゲル『現代中国の父 訒小平(下)』(2011原著/2013)


エズラ・F・ヴォーゲル『現代中国の父 訒小平(下)』を読む。
毛沢東リーダーシップの元、三度更迭され、三度復職。
共産党マルクス毛沢東思想を否定せず、
社会主義に競争原理を導入していく手腕。
この時期の中国に、訒小平というリーダーが必要だったことが理解できる。


現代中国の父 トウ小平(下)

現代中国の父 トウ小平(下)


華国鋒胡耀邦趙紫陽らと協業を進める一方、
最後には彼らを排斥する。
権力のトップに立つ者ならではの宿命だったのか。
そして1989年6月4日の天安門事件は歴史の必然だったのか、
それとも訒小平の生涯最大の判断ミスなのか。


ヴォーゲルは膨大な史料、インタビュー、中国語能力を活かして、
中国現代史の核心に迫る。
歴史の真実にガラス板一枚隔て、
あえて結論めいたことを書かないのは
学者の良心だろうか、為政者でない限界か。
言っても詮無いことだが一抹の物足りなさが残る。



僕が一番印象に残った訒小平の言葉は、
1989年9月4日、江沢民李鵬、喬石、姚依林、宋平、
李瑞環、楊尚昆、万里ら後継者に与えた指示だ。


  「最初に冷静に観察すること(冷静観察)。
   第二に足場を固めること(穏住陣脚)。
   第三に落ち着いて行動すること(沈着応付)。
   急いではだめだ。よいことはない。
   冷静に、冷静に、さらに冷静になって、
   黙々と実務に打ち込み、事をやり抜くのだ。
   われわれ自分たちの仕事を」。


         (本書下巻p.358より引用)



邦訳上下二冊1,177頁。
読み応えのある歴史書であることは間違いない。
益尾知佐子・杉本孝訳。


(文中敬称略)