佐藤優『現代の地政学』(2016)


同志社講座「キリスト教ナショナリズム」に
月一回通っているので、時間的・経済的に受講を諦めた。
早いタイミングで単行本化してもらって大変うれしい。
JALマイレージを交換したアマゾンギフト券ポイントで購入。
佐藤優『現代の地政学』を読む。


現代の地政学 (犀の教室)

現代の地政学 (犀の教室)


晶文社とのタイアップで池袋コミュニティ・カレッジで
2015年10月から16年3月まで全5回実施された講義の
講義録・講義ノートが本書の元になっている。
地政学という言葉を目や耳にする頻度が上がり、
書店の棚にも結構な数の本が並ぶ。
ナチス公認のイデオロギーだったため封印されていた政治理論だ。
第一講で佐藤講師が開口一番、こう語る。


   この講座は「現代の地政学」としましたが、
   いまからお話しするのは、
   ものすごく怪しげなことです。
   まともな大学教科書なんかに載るような話ではありません。
   (本書p.018)


マッキンダーの地政学ーデモクラシーの理想と現実

マッキンダーの地政学ーデモクラシーの理想と現実


H.J.マッキンダーマッキンダー地政学』(原書房)が
この講座の教科書だ。
(原題 "Democratic Ideals and Reality" , 1919)
そのことは既に知っていたから
図書館で借りてきて概要をつかみ、
中身が気に入ってギフト券で購入しておいた。


マッキンダーの著述を引きながら
佐藤講師が何度も強調するのは次のことだ。


   地政学的要因で一番重要な要因は地理です。
   とくにその中で重要なのは「山」です。
   (本書p.299)


第五講では、
講義はこんな感じで始まる。


   この地政学講座を始めた半年前と比べると、
   書店に地政学の本がたくさん並ぶようになりました。
   ところが地政学と名前がついていても、
   箸にも棒にもかからないものが九割以上です。
   普通、悪い例は紹介しませんが、
   極めてひどいので名前を挙げるのが、
   この船橋洋一さんの『21世紀 地政学入門』(文春新書)です。
   率直に言って塵芥の類です。
   だから読むと頭が悪くなる。
   ただ皆さんの応用問題として、
   この本のどこが間違っているのかを検討してみましょう。
   (本書p.250)


この検討が詳細かつ秀逸だった。
この本は未読だが、
以前僕は船橋洋一の週刊誌連載エッセイを読んでいて、
何を根拠にこう言えるのかまったく理解できないことがあった。
以来、自分の栄養にはならないと思って
船橋の著作には手を伸ばしてこなかった。


21世紀 地政学入門 (文春新書)

21世紀 地政学入門 (文春新書)


佐藤講師の検討によって
具体的にどこがどう間違っているのかつまびらかにされると、
自分がなぜ船橋の論点に納得できなかったか、
その一部が解きほぐされた気がした。


単行本化にあたり船橋批判の箇所を削除しなかった
佐藤講師、晶文社編集者の判断を支持する。
健全な批判・批評が出版界にももっと必要だからだ。
提灯記事のような書評ばかりが増えては
本を選ぶ参考にならない。
文春幹部・編集担当も批判はきちんと受け入れて
必要なら公開の場で論戦してもらいたい。
それが一読者として望むことだ。


いま生きる「資本論」

いま生きる「資本論」

いま生きる階級論

いま生きる階級論


僕も同志社講座に1年少々通っているので分かるが、
佐藤講師の講義録はいずれも質が高く、
著作とは違うアプローチで面白いし、読みやすい。
僕はマルクスの資本主義も佐藤の講義録で入門した。


wikipedia:en: Halford John Mackinder


(文中一部敬称略)