井上ひさし『一週間』(2010/2013新潮文庫)



むずかしいことをやさしく、
やさしいことをふかく、
ふかいことをおもしろく。
その創作信念と持てる言葉の技術をすべて使って
大日本帝国ソ連邦の巨大な闇に迫った作品に思えた。
井上ひさし『一週間』(2010)を読んだ。


一週間

一週間


井上は2010年4月9日に逝去し、
この本が出版されたのは奥付によれば同年6月30日。
初出は「小説新潮」(2000-06)。
逝去のため予定されていた加筆・修正ができないまま
単行本にしたと編集部の注意書きが残されている。
連載終了後4年経っている訳だから、
最期まで「遅筆堂」の自称に背かなかった。


物語の大筋はこうだ。腰巻きコピーを引用する。


  昭和二十一年早春、
  満州の黒河で極東赤軍の捕虜となった小松修吉は、
  ハバロフスクの捕虜収容所に移送される。
  脱走に失敗した元軍医・入江一郎の手記をまとめるよう命じられた小松は、
  若き日のレーニンの手紙を入江から秘かに手に入れる。
  それは、レーニンの裏切りと革命の堕落を明らかにする、
  爆弾のような手紙だった……。


山下勇三のシンプルな線の
イラストレーション、題字を使った
和田誠の装幀デザインが秀逸。
色を抑えたモノクロームの印象で、
一見親しみやすそうな中に
恐怖の種が仕込まれている。


文章の随所にユーモアがちりばめられていながら、
その真ん中に凍りつくような恐怖がある。
井上の書いた物語の本質を和田はよくとらえている。
読者から賛否両論あるラストシーンが印象的だ。
僕はいいと思った。


2013年に出た文庫にも
単行本の装幀を採用している。


一週間 (新潮文庫)

一週間 (新潮文庫)


(文中敬称略)