巻末に添えられた文章が読みたくて
H図書文化館から借りてきた。
遠山啓『文化としての数学』巻末、
吉本隆明「遠山啓—西日のあたる教場の記憶」を読む。
- 作者: 遠山啓
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/11/09
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昭和20年「敗戦の余燼がまだ醒めない時期」、
西日のあたる階段教室で
黒か紺に染めた詰め襟の国民服を着た遠山が
「量子論の数学的基礎」を講義していた。
学問に飢えた学生たちに請われて開講した
単位などない自主講座だ。
- 作者: 遠山啓
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2011/12/01
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毎回200名ほどの学生が聴きにきて、
遠山は3時間か、4時間、ぶっ続けで講義した。
「長い教師生活のなかで、
そのときほど熱をこめて講義したことは
なかったような気がする」
(遠山「卒業証書のない大学」)。
その教室に「怠惰で虚無的な学生」の吉本がいて
むさぼるように講義を聴き続けた。
吉本は遠山に
「人間の本性にある怠惰とデカダンスをよく知っていて、
それを禁欲的な強い意志で制御した上に数学を築いている
精神の匂い」
を嗅ぎわけた。
なんだか想像するだけでいい風景だ。
この文章を読むまで遠山啓と吉本隆明に
直接の接点、出会いがあるとは知らなかった。
1945年と言えば、前年遠山は東工大助教授に就任。
吉本は同電気化学科の学生だった。
吉本はさらに打ち明ける。
「あらゆる職から断たれて途方にくれていたとき、
アルバイトの就職口を探してくれた。
わたしはお陰で長いあいだ
生活の破産を免れることができた」。
(同書p.244より引用)
- 作者: 遠山啓
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『遠山啓著作集』を読んで遠山が東大を中退し、
浪人生活をしながら哲学、文学を学んだ時期があるのを知った。
22歳から26歳までの4年間だ。
その後、遠山は東北大理学部数学科に再入学し
数学者、数学教育者の道を歩む。
- 作者: 吉本隆明
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この文章は遠山の死を悼む追悼文として
1979年、雑誌「海」に発表された。
ふたりの出会いを知って、
吉本の著作も本格的に読んでみたいと思った。
『追悼私記』(ちくま文庫、2008)より転載。
初出:「海」(1979/原題・遠山啓さんのこと)
wikipedia: 遠山啓
wikipedia: 吉本隆明
(文中敬称略)