宇野弘蔵『経済原論』(岩波文庫、2016)(再読)


粘り強く問題を考える持続力を持つ人だけが、
全体と細部を見通す展望を持てるのかと思う。
宇野弘蔵『経済原論』(岩波全書1964、同文庫2016)を再読する。
宇野が書いた「序」の意味がようやく身に沁みてきた。


経済原論 (岩波文庫)

経済原論 (岩波文庫)


   『資本論』における問題点は問題点として明らかにしてこそ、
   『資本論』に学ぶこともできるのである。
   また古典経済学を
   徹底的に批判して確立されたマルクス経済学を措いて、
   経済学の基本的概念は得られるものではない。


   『資本論』は古い、などといって
   済ませるものではないのである。
   『資本論』を科学の書として、
   できうる限りこれに学ぶというのが、私の念願である。


ここまではいい。
宇野の凄味が出るのはこれに続く段落である。


(宇野が最初に書いた『経済原論』全2巻)


   旧著『経済原論』は、
   元々この全書の一冊として書き始めたのであるが、
   当時はなお私には、
   こういう簡単なる形で経済原論をまとめることが
   できなかったのであった。


   今ようやくそれを実現することができたのであって、
   私はこれを機会に
   旧著『経済原論』の全面的な再検討にかかりたいと思っている。
   本書で説きえなかった諸問題を
   なお詳細に論究したいと思うのである。


過去の自著で解き明かせなかった点を認め、
本書での解決を足がかりに
もう一冊の同名主著を書き改めると宣言しているのだ。


さらに「索引B」に
「本書で取りあげた『資本論』における問題点」として
24の問題点を関連頁とともに具体的に紹介している。


資本論』の本質を
もっとも深く解析した日本人が宇野だったのか。
マルクスと宇野を冥界で対談させたら
どんな内容になるのだろうかと妄想したくなる。


経済原論 (岩波全書)

経済原論 (岩波全書)

(復刊した文庫の定本となった岩波全書)

宇野弘蔵、1897-1977、Wikipediaより引用)
wikipedia:宇野弘蔵
(文中敬称略)