「頑張っているね」が聞きたくない(川島陽子)


スクラップブックから
朝日新聞2018年11月5日朝刊
読者投稿欄「ひととき」 今はトンネルの中
東京都大田区 川島陽子 非常勤職員 63歳



   母の介護で2人で生活を始めて丸9年。
   最近は私がわからなくなったり、
   戦争で失った生家に帰ると言い出したり。
   しかし、よく食べよく寝て、身体は至って健康。
   私は毎日同じような話を聞き、
   先の見えないトンネルにいる感じだ。


   「頑張っているね」とか「偉いね」とか、
   よくほめていただく。ありがたい。
   でも時々そんなことばが聞きたくなくて、
   だれにも会えなくなる。うつである。
   (略)


   一度、うつ期に入ると長い。
   今は1カ月くらい続いている。
   遠くから会いに来てくれるという友達に
   「お願いだから来ないで」と言ってしまったこともある。
   気まずいが、どうしようもない。
   心臓がどきどきして力が出ない状態だから。
   (略)


   いつかきっとトンネルから抜け出せると信じて
   毎日を送っている。
   (略)



以前この欄で、うつに悩んでいる友人を励まそうと
手紙を書いていた方の投書が掲載されたことがある。
その友人に「返事を書かなくてはと重荷になるので
もう手紙を送らないで」と言われてしまった。
川島さんはその方にメッセージを送っている。


   だから、もう手紙をくれるなと言われた方も、
   待っていてあげてください。
   本当はあなたに感謝しているはずだから。


ご自分がトンネルの中で苦しんでいるのに、
投書した方を励まそうとしている。
そのやりとりを、そっと「ひととき」欄に載せる担当者。
小さなコミュニティが息づいているのを
少し離れた所から見ていたい。