自分なりにアレンジして取り入れ早11年目。
独断と偏見のみによる2018年ベスト書籍をご笑覧ください。
(書誌の後の○は自前で購入した本。それ以外は図書館他で借りた本)
第1位 石牟礼道子『魂の秘境から』(朝日新聞出版、2018)
『苦界浄土』から、社会派の重苦しい文章を
勝手にイメージしていたのが恥ずかしい。
これほど澄んだ文章を書く人とはまったく知らなかった。
いずれ『苦界浄土』も読めるといいのだが。
著者絶筆。ご冥福を祈ります。
佐藤の自伝的小説にはいつも胸打たれる。
著者に対してインテリジェンス、神学の印象ばかり強い人は
虚心坦懐に一度手にしてみるとよい。
この作品を無視するかのような各文学賞選考の懐が狭く、貧しく思えてくる。
第3位 五島史之『薬に頼らずめまいを治す方法』(アチーブメント出版、2017)○
めまいは他人からは病気扱いされない割に
本人にとってはつらい不調だ。
患者を甘やかすのでなく、
具体的なリハビリ体操を提示することで距離感を保つ
著者の医者としての姿勢に好感を覚えた。
エクササイズを日々に取り入れ、8カ月になった。
第4位 松岡正剛『情報の歴史』(NTT出版、1990)○『情報の歴史を読む—世界情報文化史講義』(NTT出版、1997)○
こんな面白い年表があったのか。
自分の不見識を恥じる。
三日間ぶっ通しの「世界情報文化史講義」が実現した。
サイト「日本の古本屋」「アマゾン・マーケットプレイス」を日夜渉猟して、
市場価格としては割合リーズナブルに入手(両書ともいまでも高価)。
長く手元に置き、勉強を続けたい。
情報の歴史―象形文字から人工知能まで (BOOKS IN・FORM SPECIAL)
- 作者: 松岡正剛,情報工学研究所
- 出版社/メーカー: NTT出版
- 発売日: 1990/04
- メディア: 単行本
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情報の歴史を読む―世界情報文化史講義 (BOOKS IN FORM SPECIAL)
- 作者: 松岡正剛
- 出版社/メーカー: NTT出版
- 発売日: 1997/01
- メディア: 単行本
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第5位 宮下奈都『羊と鋼の森』(文春文庫、2018)○
なにより文章がいい。映像が浮かぶ。
小説の面白さをあらためて教えてくれる作家に、
2018年、宮下奈都が加わったのがうれしい。
第6位 中澤英彦(編集主幹)『プログレッシブ ロシア語辞典』(アプリ版)
(小学館/物書堂、2016)○
ロシア語は見たとおりの発音であるとして
発音記号すら載せない辞書が多い。
ところが、どんな言語にも例外がたくさんあるので
初心者は混乱するばかりだ。
ユーザーの評判が高かったこの辞書をiPhoneに入れて、
どれだけロシア語学習が楽になったか分からない。
AIによって複数の男女の声で発音を確かめられるのだ。
物書堂の辞書アプリはどれも質が高く、信頼に値する。
第7位 ヘーゲル/武市健人訳『改訳・歴史哲学(上・下)』(岩波書店、1954)
二年越しに全二巻を読了。
長谷川宏訳も読んでいるが、
身体に染み入ってくる。
これほど透徹なまなざしで歴史を眺め、記述する人が存在したのだ。
第8位 松岡正剛『文明の奥と底—千夜千冊エディション』(角川ソフィア文庫、2018)○
『千夜千冊』(全8巻)(求龍堂、2006)は読書人垂涎の書だ。
定価税込102,600円(本体95,000円)。
おいそれと手を出せないのも事実だ。
サイト版、書籍版とも異なる編集で
2018年、角川ソフィア文庫から「千夜千冊エディション」発売開始。
いまのところ月1冊のペースで出ている。
編集をやり直し、加筆訂正もいとわない徹底ぶりが正剛流儀だ。
これまで発表したすべての原稿に「参照千夜」が付いているため、
読者は古今東西、縦横無尽に松岡が選び育んだ書籍の森を飛び回れる。
素晴らしい仕事だ。
第9位 アントニー・D・スミス/庄司信訳『ナショナリズムとは何か』(ちくま学芸文庫、2018)○
初めは難しくてまったく歯が立たなかったスミスの書籍
『ネイションとエスニシティ—歴史社会学的考察』(名古屋大学出版会、1999)が、
講師の助言通り三回通読し、線を引いたり、音読するうちに
身体に染みこむようになった。
そのスミスが自説だけに拘泥せず、
ナショナリズム全般に関する第一人者たちの研究を俯瞰し、まとめた一冊。
今度はとても分かりやすく読めた。
第10位 柚木麻子『ランチのアッコちゃん』(双葉社、2013)
ファンによれば「黒柚木」「白柚木」があるそうだ。
『ナイルパーチの女子会』『BUTTER』などは黒柚木。
「アッコちゃん」シリーズは白柚木の代表作と言えるだろう。
和田アキコを彷彿とさせる主人公は
食べることを大切にし、生命力溢れる女性。
生きる気力を失っている周囲の人たちを、
お説教でなく自然に励ます力を持っている。
この連作を読み、ハハハと笑いながら、
なんだか気持ちが軽くなっている自分に気づいた。
次点 マルクス・ガブリエル/清水一浩訳『なぜ世界は存在しないのか』(講談社、2018)○
新進気鋭の哲学者・千葉雅也が推薦した一冊。
タイトルにも惹かれた。
哲学の世界は先人たちに語り尽くされ、
研究され尽くされたと思い込んでいたが、
まだまだ切り開ける余地があるのだな、と思わされた。
哲学はかび臭い学問でなく、
現在を生きる力や助けになるかもしれないと思い、一読再読した。
外国語を学ぶことは自分にとって
もはや身体の一部以上の行為になってしまった(病気ですね)。
特に歴史的名著との出会い、耽溺の喜びは格別だ。
古書サイトをめぐり、街の古書店、新刊書店に足を運び、
ときめく一冊を手にする時間はかけがえのないものだ。
2018年の収穫を番外編として記録しておく。
番外
▶Hidesaburo Saito『Practical English Grammar』(全4巻)(日興社、1898-99)○
▶田中菊雄『英語廣文典』(白水社、1953)○
▶関口存男『新ドイツ語文法教程第4版』(三省堂、1980)○
▶高津春繁『ギリシャ・ローマ神話辞典』(岩波書店、1960)○
▶最所フミ『英語類義語活用辞典』(ちくま学芸文庫、2003)○
2019年も時折「デジタルノート」にお寄りいただけますよう。
みなさまにとって健やかな、心安らぐ一年になることをお祈りします。