極私的ベスト2018(書籍篇)

 

 

 
ブログ仲間haruharuyさんの「極私的ベスト」

自分なりにアレンジして取り入れ早11年目。

 独断と偏見のみによる2018年ベスト書籍をご笑覧ください。

(書誌の後の○は自前で購入した本。それ以外は図書館他で借りた本)

 

 第1位 石牟礼道子『魂の秘境から』(朝日新聞出版、2018)

  

『苦界浄土』から、社会派の重苦しい文章を

勝手にイメージしていたのが恥ずかしい。

これほど澄んだ文章を書く人とはまったく知らなかった。

いずれ『苦界浄土』も読めるといいのだが。

著者絶筆。ご冥福を祈ります。

 

魂の秘境から

魂の秘境から

 
新装版 苦海浄土 (講談社文庫)

新装版 苦海浄土 (講談社文庫)

 

  

第2位 佐藤優『十五の夏(上・下)』(幻冬舎、2018)

 

佐藤の自伝的小説にはいつも胸打たれる。

著者に対してインテリジェンス、神学の印象ばかり強い人は

虚心坦懐に一度手にしてみるとよい。

この作品を無視するかのような各文学賞選考の懐が狭く、貧しく思えてくる。

 

十五の夏 上

十五の夏 上

 
十五の夏 下

十五の夏 下

 

 

第3位 五島史之『薬に頼らずめまいを治す方法』(アチーブメント出版、2017)○

 

めまいは他人からは病気扱いされない割に

本人にとってはつらい不調だ。

患者を甘やかすのでなく、

具体的なリハビリ体操を提示することで距離感を保つ

著者の医者としての姿勢に好感を覚えた。

エクササイズを日々に取り入れ、8カ月になった。

 

薬に頼らずめまいを治す方法

薬に頼らずめまいを治す方法

 

 

第4位 松岡正剛『情報の歴史』(NTT出版、1990)○『情報の歴史を読む—世界情報文化史講義』(NTT出版、1997)○

 

こんな面白い年表があったのか。

自分の不見識を恥じる。

大澤真幸千葉大准教授(当時)の招きで、

三日間ぶっ通しの「世界情報文化史講義」が実現した。

サイト「日本の古本屋」「アマゾン・マーケットプレイス」を日夜渉猟して、

市場価格としては割合リーズナブルに入手(両書ともいまでも高価)。

長く手元に置き、勉強を続けたい。

 

情報の歴史―象形文字から人工知能まで (BOOKS IN・FORM SPECIAL)

情報の歴史―象形文字から人工知能まで (BOOKS IN・FORM SPECIAL)

 
情報の歴史を読む―世界情報文化史講義 (BOOKS IN FORM SPECIAL)

情報の歴史を読む―世界情報文化史講義 (BOOKS IN FORM SPECIAL)

 

 

第5位 宮下奈都『羊と鋼の森』(文春文庫、2018)○

 

なにより文章がいい。映像が浮かぶ。

小説の面白さをあらためて教えてくれる作家に、

2018年、宮下奈都が加わったのがうれしい。

 

羊と鋼の森 (文春文庫)

羊と鋼の森 (文春文庫)

 

 

第6位 中澤英彦(編集主幹)『プログレッシブ ロシア語辞典』(アプリ版)

小学館/物書堂、2016)○

 

ロシア語は見たとおりの発音であるとして

発音記号すら載せない辞書が多い。

ところが、どんな言語にも例外がたくさんあるので

初心者は混乱するばかりだ。

ユーザーの評判が高かったこの辞書をiPhoneに入れて、

どれだけロシア語学習が楽になったか分からない。

AIによって複数の男女の声で発音を確かめられるのだ。

物書堂の辞書アプリはどれも質が高く、信頼に値する。

 

プログレッシブ ロシア語辞典

プログレッシブ ロシア語辞典

 

 

第7位 ヘーゲル武市健人訳『改訳・歴史哲学(上・下)』(岩波書店、1954)

 

二年越しに全二巻を読了。

長谷川宏訳も読んでいるが、

やや古風な武市健人訳はヘーゲルの講義姿まで想像できて、

身体に染み入ってくる。

これほど透徹なまなざしで歴史を眺め、記述する人が存在したのだ。

 

f:id:yukionakayama:20190102154350j:plain

 

第8位 松岡正剛『文明の奥と底—千夜千冊エディション』(角川ソフィア文庫、2018)○

 

『千夜千冊』(全8巻)(求龍堂、2006)は読書人垂涎の書だ。

定価税込102,600円(本体95,000円)。

おいそれと手を出せないのも事実だ。

サイト版、書籍版とも異なる編集で

2018年、角川ソフィア文庫から「千夜千冊エディション」発売開始。

いまのところ月1冊のペースで出ている。

編集をやり直し、加筆訂正もいとわない徹底ぶりが正剛流儀だ。

これまで発表したすべての原稿に「参照千夜」が付いているため、

読者は古今東西、縦横無尽に松岡が選び育んだ書籍の森を飛び回れる。

素晴らしい仕事だ。

 

 

第9位 アントニー・D・スミス/庄司信訳『ナショナリズムとは何か』(ちくま学芸文庫、2018)○

 

同志社講座(佐藤優講師)を2015年から受講している。

初めは難しくてまったく歯が立たなかったスミスの書籍

『ネイションとエスニシティ—歴史社会学的考察』(名古屋大学出版会、1999)が、

講師の助言通り三回通読し、線を引いたり、音読するうちに

身体に染みこむようになった。

そのスミスが自説だけに拘泥せず、

ナショナリズム全般に関する第一人者たちの研究を俯瞰し、まとめた一冊。

今度はとても分かりやすく読めた。

 

ナショナリズムとは何か (ちくま学芸文庫)

ナショナリズムとは何か (ちくま学芸文庫)

 

 

第10位 柚木麻子『ランチのアッコちゃん』(双葉社、2013)

 

ファンによれば「黒柚木」「白柚木」があるそうだ。

ナイルパーチの女子会』『BUTTER』などは黒柚木。

「アッコちゃん」シリーズは白柚木の代表作と言えるだろう。

和田アキコを彷彿とさせる主人公は

食べることを大切にし、生命力溢れる女性。

生きる気力を失っている周囲の人たちを、

お説教でなく自然に励ます力を持っている。

この連作を読み、ハハハと笑いながら、

なんだか気持ちが軽くなっている自分に気づいた。

 

ランチのアッコちゃん

ランチのアッコちゃん

 

 

次点 マルクス・ガブリエル/清水一浩訳『なぜ世界は存在しないのか』(講談社、2018)○

 

新進気鋭の哲学者・千葉雅也が推薦した一冊。

タイトルにも惹かれた。

哲学の世界は先人たちに語り尽くされ、

研究され尽くされたと思い込んでいたが、

まだまだ切り開ける余地があるのだな、と思わされた。

哲学はかび臭い学問でなく、

現在を生きる力や助けになるかもしれないと思い、一読再読した。

 

なぜ世界は存在しないのか (講談社選書メチエ)

なぜ世界は存在しないのか (講談社選書メチエ)

 

 

外国語を学ぶことは自分にとって

もはや身体の一部以上の行為になってしまった(病気ですね)。

特に歴史的名著との出会い、耽溺の喜びは格別だ。

古書サイトをめぐり、街の古書店、新刊書店に足を運び、

ときめく一冊を手にする時間はかけがえのないものだ。

2018年の収穫を番外編として記録しておく。

 

番外 

▶Hidesaburo Saito『Practical English Grammar』(全4巻)(日興社、1898-99)○

f:id:yukionakayama:20181222114006j:plain


▶田中菊雄『英語廣文典』(白水社、1953)○

英語広文典 (1953年)

英語広文典 (1953年)

 

 

関口存男『新ドイツ語文法教程第4版』(三省堂、1980)○

f:id:yukionakayama:20190102145757j:plain

 

▶高津春繁『ギリシャローマ神話辞典』(岩波書店、1960)○

f:id:yukionakayama:20190102145923j:plain

 

最所フミ『英語類義語活用辞典』(ちくま学芸文庫、2003)○

英語類義語活用辞典 (ちくま学芸文庫)

英語類義語活用辞典 (ちくま学芸文庫)

 

 

最所フミ『日英語表現辞典』(ちくま学芸文庫、2004)○

日英語表現辞典 (ちくま学芸文庫)

日英語表現辞典 (ちくま学芸文庫)

 

 

2019年も時折「デジタルノート」にお寄りいただけますよう。

みなさまにとって健やかな、心安らぐ一年になることをお祈りします。