アントニー・トゥー『サリン事件死刑囚ー中川智正との対話』(KADOKAWA、2018)


本人の死刑執行後に出版するのが条件だった。
アンソニー・トゥーサリン事件死刑囚—中川智正との対話』
KADOKAWA、2018)を読む。



著者は毒性学、生物兵器化学兵器の専門家。
コロラド州立大学名誉教授。
松本サリン事件・東京地下鉄サリン事件で日本の警察に協力し、
事件解明の鍵を作った。
「まえがき」から引用する。


   私はなぜオウムがテロの暴力に走ったか、
   いかにして化学、生物兵器のプログラムを作ったかについて
   調べるようになった。


   この調査が一段と進んだのは、日本の法務省の許可を得て
   死刑囚の1人であった中川智正(ともまさ)氏と面会できたからである。
   オウムの内側からの情報を中川氏の全面的協力で知ることができ、
   謎が次々と解明された。


   東京拘置所で14回、また広島拘置所で1回にわたって
   面会を許可されたことについて、
   法務省と東京拘置所の関係者に深く御礼を述べたい。
                         (p.3)


2017年2月13日、クアラルンプール空港で
金正男氏が暗殺された事件で、
いち早く「VXによる可能性が高い」と
トゥー先生に知らせたのが中川氏だった。
先生が氏との信頼関係に基づき、
彼の見解を毎日新聞・岸達也記者に知らせスクープとなった。


2018年7月2日付の中川氏から
トゥー先生への最後のメールにこうある。


   マレーシアの事件を分析するには、医学知識はともかく、
   私の化学知識は不足していたので、ずい分勉強しました。
   死にたくないというのが理由ならば、あんなに勉強しません。


   北朝鮮の政府内には、
   オウム真理教の起こした事件を研究していた部署があるそうです。
   VX塩酸塩のことは教団のやったことを研究しないと
   思いつかないと思います。
   いきがかり上、どうしても書きたいと思いました。
   (略)
                        (p.226


中川氏の最後の行動を知ると、
トゥー先生の「罪を憎んで、人を憎まず」の思いが伝わってくる。
著者は台湾生まれで日本語も堪能。
本書も翻訳でなく自著である。


サリン事件: 科学者の目でテロの真相に迫る

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サリン事件の真実 (新風舎文庫)

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