朱野帰子『対岸の家事』(講談社、2018)

いまの日本社会では子どもができたり、
親が認知症や要介護状態になったとたん、
一気に社会的弱者に追い込まれる可能性が誰にでもある。
自分が弱者になるまではそうした苦境も他人事に過ぎない。
朱野帰子『対岸の家事』(講談社、2018)を読む。
「火事」と「家事」を掛けた題名が秀逸だ。


対岸の家事

対岸の家事


主人公の村上詩穂のプロフィールはこうある。


   27歳、専業主婦。
   居酒屋に勤める夫の虎朗(とらお)、2歳の苺(いちご)の3人家族で、
   築40年のマンション暮らし。
   母を14歳の時に亡くし、家を出るまで家事を一手に引き受けていた。
   ママ友を見つけられず、常に苺と二人きり。


二人のこどもを抱え仕事との両立に悪戦苦闘するワーキングマザー礼子。
2年間の育休を取っている国土交通省エリートのイケダン達也。
元保育士で小児科の夫と結婚して受付を手伝う晶子。
夫に先立たれ、40歳のビジネスウーマンの娘を助ける坂上さん。
多彩な人物が詩穂のまわりを取り囲む。


いまの日本のどこにでもありそうな風景でありながら、
日々の暮らしにいっぱいいっぱいになって
マンションからの飛び降り自殺を考えたり、
主婦に敵意を持つ匿名のいやがらせメールを受け取ったり、
緩急付けられたストーリーテリングの巧みさに
先を読まずにいられなくなる。


大きな視点、男中心の社会の視点からは見過ごされがちな暮らしの細部に
喜びも哀しみも潜んでいることをそっと教えてくれる。
他人に対する優しさとはなんだろう、とふと思う。
いい作家に出会えた。
他の作品も読んでいきたい。


わたし、定時で帰ります。 (新潮文庫)

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わたし、定時で帰ります。 :ハイバー

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マタタビ潔子の猫魂(ねこだま) (ダ・ヴィンチブックス)

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(朱野作品、僕は4冊目)


(伸坊さんに同名著書がありました。
デジタル検索機能があればこそ分かるんですね)