疲弊した電池のような君を(宮園佳代美)

クリッピングから
讀賣新聞2019年11月25日朝刊
読売歌壇(俵万智選)


今週も気に入った句を拾ってみる。
最優秀句から。


  外見は変わらぬままに疲弊した
  電池のような君を案じる


         高島市 宮園佳代美


  【評】新鮮にして的確な比喩だ。
     電池が減ったことは何らかの現象でしか確認できない。
     「君」にも、そういう現象があったのだろう。
     見た目が変わらないところに、
     無理をしているのかもという心配が生じる。


我が家でも疲労困憊したときは
「電池が切れたみたい」とよく言います。
自分自身のことでなく相手のことを思いやる気持ちが
この句から伝わってきました。
続いて優秀句から。


  へし折れて杉のかをりのしるくせり
  台風過ぎし山道ゆけば


          市原市 井原茂明


この句を味わっていると
山道の杉の香りがプンとしてくるようでした。
短歌の力ってスゴいなぁ。


  風呂に入る風呂より戻るその度に
  パンツの暖簾くぐる長雨


         青梅市 諸井末男


「パンツの暖簾」が目に浮かんで
思わずニヤリとしてしまいます。
洗濯物を干せない日々が続いたんですね。


  よく空に水があるなと子らがいう
  台風予報のどしゃぶり雨に


         国分寺市 松島務


たとえ科学的原理を理解したとしても、
どしゃぶり雨を溜めておく場所が
いったい空のどこにあるのか想像すると
不思議な気持ちになります。


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