誰かのためのやさしい電柱(小杉なんぎん)

クリッピングから
讀賣新聞2020年2月17日朝刊
読売歌壇(俵万智選)


万智さんが評を添える最優秀3作と
それ以外の優秀7作の差はどこにあるのか。
その境界線を意識して10句を読んでみる。


  電柱に誰かがもたれている時の
  誰かのためのやさしい電柱
         守口市 小杉なんぎん


    【評】シンプルな言葉だけで、なにげない風景に
       不思議な味わいを与えたところが見事。
       電柱は無機物ではあるが、そっと誰かを支えている時、
       それは「やさしい」ものとなる。


  赤を着て雪野を来つつある人の
  足跡青し浅く小さく
        青梅市 諸井末男


    【評】洋服の赤、雪の白、そして足跡の青。
       トリコロールカラーが印象的だ。
       「人」が幼い人であることを明かす結句も巧い。


  百貨店、ドラッグストア、
  人間じゃない友だちを追加していく
          狭山市 えんどうけいこ


    【評】無料通信アプリLINEを使っている場面だろう。
       店であっても「友だち」と表記されることへの、
       かすかな違和感。上二句の具体性が効いている。
   

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優秀作にも一読して
「うまいなぁ」「わかるなぁ」と好感を持つ句があった。
最優秀3句は時間を置いて読み返したとき、
視点の広がりが単線でなく複線である面白さがあると思えた。


考える短歌―作る手ほどき、読む技術 (新潮新書)

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  • 作者:俵 万智
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2004/09/01
  • メディア: 新書