捕まりそうな女郎蜘蛛の巣(柏屋敏秋)

クリッピングから
讀賣新聞2020年1月6日朝刊
読売歌壇(俵万智選)


12月でこの欄を引退した先生がいたので、
万智さんの掲載場所が一段繰り上がりました。
ヒエラルキーの世界であることが分かりますね。


最優秀3句では、この句が僕には新鮮でした。
視点の移動、言葉の飛躍がとても面白い。
風景が静的でなく、動的に伝わってきます。


  見上げれば豆粒ほどのジェット機
  捕まりそうな女郎蜘蛛の巣

         山形市 柏屋敏秋


  【評】遠近法のマジックで描かれただまし絵のような面白さ。
     ジェット機が羽を持つ小さな虫のようだ。
     手前に大きく張られた女郎蜘蛛(じょろうぐも)の巣は
     禍々(まがまが)しく、迫力がある。


句とともに万智さんの評を読むと、
味わいが深まり、理解が広がります。
簡潔な文章で人の句の批評ができること自体が
言葉の技術なんですね。


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優秀句にも昆虫を観察した一句がありました。
こちらは蝶です。
あ、あるなぁ、こういうシーンが、と思わずうなずきました。


  冬蝶が荷物のごとく背負う翅
  ふき来る風にまたもよろける

         宮崎市 長友聖次


生活感があって軽快なこの句も好きでした。
川柳に近いかな、とも思うけれど、
いやいやこれは短歌の余韻があるぞ、と楽しめます。
「右手探してもう五日」の言葉づかいが秀逸。


  見つからぬ右手探してもう五日
  百円ショップの手袋だけど

         奈良県 松本悦子


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入選十句と比べると
自分の投稿した句はまだまだ薄っぺらに思えます。
そのとき生まれた気持ちを定型に彫琢していく
言葉の選び方、並べ方の技術が追いつきません。
優秀句と万智さんの評を読むことで、
そこをもっと学びたいと思います。


考える短歌―作る手ほどき、読む技術 (新潮新書)

考える短歌―作る手ほどき、読む技術 (新潮新書)

  • 作者:俵 万智
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2004/09/01
  • メディア: 新書