エンジニアの能力が発揮される環境整備が大切だ(登大遊)

クリッピングから
産経新聞2020年6月16日朝刊
在宅システム 2週間で開発
NTT東がヘッドハント プログラマー登大遊(のぼり だいゆう)さん


コロナ禍によって
世界中で突然リモートワーク、テレワークの要請が高まった。
しかしそれを実現するには気合いだけではなんともならない。


業界で知られる35歳のプログラマー登大遊さんを採用。
2週間のテレワーク、既存システムの1/10の費用で
既に3万人以上が利用するテレワークシステムを開発した
NTT東日本の事例に目が止まった。


  新型コロナウイルスの流行を機に、
  NTT東日本が開発し無償提供しているテレワークシステムが好評だ。
  自宅のパソコンから安全に職場のネットワークに入れるシステムで、
  利用者はすでに3万2千人を超えたが、
  驚くべきはこのシステムがわずか2週間で開発された点だ。


  携わったのは同社が4月にヘッドハンティングした
  登大遊(のぼりだいゆう)さん(35)。
  業界では名の知れた天才プログラマーだ。


  「短期間で作ったシステムだが、大きな事故はない。
  今後のシステム開発にとって大きな価値になる」
  そう語る登さんは、小学生でプログラミングを始め、
  高校時代にはプログラミングに関する著書を出版。
  筑波大在学中に開発した独自のVPN(仮想プライベートネットワーク)システムで
  平成19年に経済産業相表彰も受けた。
  今も同社に籍を置きつつ、筑波大准教授や
  自ら企業したソフトウエア会社の代表を務める。


  国のサイバーセキュリティー研究の中核を担う独立行政法人
  「情報処理推進機構IPA)」でも業務にあたるが、
  仕事をする上で必要となる秘密保持の誓約書の提出を拒否した逸話もある。
  その際は、厳しすぎる守秘義務が開発を滞らせている点や、
  代わりの情報漏洩(ろうえい)対策をまとめた
  数十枚のリポートを提出して特例を勝ち取った。
  「今も研究仲間の間では、このリポートの提出が慣例になっている」という。


  世界の技術者がしのぎを削るシステム開発の世界ではスピードが命だ。
  しかし、日本の大企業の開発現場は部署間の縦割りや、
  セキュリティー対策を重視する傾向があり、新技術の導入は遅れがちだ。


  NTT東にとっても柔軟で迅速な開発は課題。
  登さんを迎え入れるに合わせて「特殊局」という部署を新設し、
  自由に仕事ができる環境を整えた。
  新部署といっても2人だけの小所帯。
  外出自粛もあって、テレワークシステムはテレビ会議をしながら作りあげた。


  手のひらサイズの汎用(はんよう)コンピューター100台を
  利用しているのが特徴で、
  設備費用は既存のシステムの10分の1程度に抑えた。
  セキュリティー面で難色を示す声もあったが、スピードを優先させた。


  「日本の大企業はエンジニアの質も高く、
  開発環境も恵まれている」と語る登さん。
  ただ社内調整に力を割かれている現実もあるといい、
  「エンジニアの能力が発揮される環境整備が大切だ」と話している。


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閉塞感のある日本社会でも
激動期には異才の「特例」「特別待遇」が認められ、
緊急の突破口が作れることもあるのだな。
NTT東日本のような大企業に、
登さんを採用し、二人だけの「特殊局」を作ることを決断させた
役員がいたに違いない。


こうした事例を「特例」の美談で終わらせず、
人間の能力を発揮するための中長期の環境整備にまで拡張できるかどうかが、
日本社会の直近の課題になるだろう。
その対象はエンジニアだけではない。
元気をもらった産経新聞の記事だった。