少女らが翼ぬぐごと置きゆきし(古谷真利子)

クリッピングから
讀賣新聞2020年6月16日朝刊
読売歌壇(俵万智選)


今週は俵万智さんが選んだ最優秀作3首、
それぞれ他の歌に似ていない味わいがあった。
余韻のふくらみ、とでも言うのか。


  垣間見るゆかしさもなき令和にて
  アクリル板の明け透けの御簾

          足利市 坂庭悦子

     【評】スーパーのレジやホテルのフロントなどで
        見かけるようになったアクリル板。
        感染予防のためだが、
        現代の御簾(みす)という見立てがユニークだ。
        垣間見の風情は残念ながらなく、
        便利と風流について考えさせられる。


  母の手はいつも濡れゐて温かし
  我等は五人その手に育つ

         豊橋市 鈴木昌

     【評】母の手の温もりは多く詠まれてきたが、
        濡(ぬ)れていたという記憶のリアルさに打たれた。
        家事などが具体的に思い浮かぶうえ、
        その忙しさへの想像が広がる表現だ。


  少女らが翼ぬぐごと置きゆきし
  自転車二台しろつめの原

         狭山市 古谷真利子

     【評】妖精のような少女たち。
        ぬぐという動詞と、
        自転車へのフォーカスが効いている。


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続く優秀作7首の中では
地原さんの歌が印象に残った。


  諦めた途端ピクリと動き出す
  壊れた時計のような発想

       鹿児島市 地原陽子


どんな発想を諦めたのだろう。
ピクリと動き出して、諦めるのを止めたのだろうか。
それとも、そのまま諦めてしまったのか。


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