テレビ画面のミツバチが飛ぶ(門倉まさる)

クリッピングから
讀賣新聞2020年3月16日朝刊
読売歌壇(俵万智選)


今週は好きな歌が多く見つかり、
うれしかったです。
読むときの気持ちの持ちようにも
味わいが左右されるのかもしれませんね。


  音を消し説明消せば生き生きと
  テレビ画面のミツバチが飛ぶ


         高崎市 門倉まさる


    【評】BGMや解説は、視聴者によかれと思ってのことだろうが、
       時に煩わしい。そもそも自然界には、そんな音や説明はない。
       解放されたようなミツバチを思いつつ、
       情報ということについて考えさせられる一首だ。


門倉さんは無音の音に着目しました。
「いい耳をしてるなぁ」と感心した歌がもう一首、
掲載されました。


  そこここでタンカンポンカンデコポン
  聞こえ始める春の石けり


          東京都 大武美和子


石けりの音を「タンカンポンカンデコポン」と表現したのが
ユーモラスでした。
石けりにも春の季節が出るんですね。



  若葉めく付箋を貼ればむくむくと
  大樹とならん少年の辞書


           足利市 坂庭悦子


    【評】少年の内面の成長を、目に見える形で示す付箋。
       若葉の比喩から、大樹へとつないだ手際が見どころだ。


歌を読み終えた後、
そうか、少年が使った付箋が若葉色だったんだなぁ、
と時間差で色が浮かんできました。
小さな付箋と大樹の対比が鮮やかです。


  二階建て新幹線に乗れたけど
  最終便の車窓は深海


          燕市 田巻由美子


せっかく二階席が取れたのに、とがっかりしながらも
車窓の景色を深海に見立てて気分を持ち直す発見が印象的でした。


  くつ下の干し方ひとつでケンカする
  相手がありて空青き夏


           青森市 横浜暁子


そうなんですね。
ささいなことでケンカできる相手が身近にいることも、
仕合わせな時間、空間なんでしたよね。
「空青き夏」と大きな風景で歌を終わらせたのが
成功しているように思いました。
  


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