山中季広評:今井むつみ『英語独習法』(岩波新書、2020)

クリッピングから
朝日新聞2021年4月10日朝刊
読書欄「売れてる本」 
英語独習法 今井むつみ<著>


英語独習法 (岩波新書)

英語独習法 (岩波新書)


  言語は氷山 水面下こそ学べ


  milkは「身浮く」。waterは「おわら」。
  What do you say?は「和田痩せ?」……。
  恥をさらすようですが、
  米国や香港に長く駐在したくせに、私の発音は我流のまま。
  書けば、aとthe、sayとtellに迷い、
  そのコンプレックスは一向に解消しない。
  (略)


  外交官も教授も支社長さんも、
  日本育ちは、そこそこ読めはするのに、
  ①書けない ②聴けない ③話せない、のである。


  本書の著者は、そのわけをグイグイと深掘りし、
  日本語と英語の間に横たわる北極海のような隔たりを解き明かす。
  理解できた範囲で要約すれば、
  英語の単語や文法、言い回しなどは薄っぺらい氷の小岩。
  その海面の下には、英語を母語とする人々が
  ふだん意識せずに共有する概念、前提、文脈、関連語といった
  巨大な「氷山」が隠れている、という壮大な指摘だ。
  (略)


  読めば目からウロコが飛ぶようにはがれていく。
  「多読ではなく熟読を」(ウロコ2枚)。
  「映画は好きな1本を熟見すべし」(3枚)。
  日本人にありがちな癖をまとめた
  「日本人イングリッシュあるある本」では実践力はつかない(4枚)。
  同じ勢いで「本書をよむだけ
  読者が英語の達人になれるとは言わない」(5枚)
  と率直な語りがうれしい。
  (略)

             山中季広(としひろ)(本社論説委員


著者の専攻は、認知科学言語心理学発達心理学
現在、慶應義塾大学環境情報学部教授。
本書「あとがき」から引用する。


  本書を執筆する前に、英語学習について、
  徒然に考えていたことを文章にまとめ、
  大修館書店の『英語教育』(2015年4月号〜2016年3月号)と
  NHKテキスト『ラジオ 入門ビジネス英語』
  (2018年4月号〜2019年3月号)に連載していた。
  本書はそれらのエッセイを再編成し、大きく加筆したものである。
  (略)


  じつは本書は10年近く前に提案し、
  濱門さん(引用者注:編集を担当した岩波書店・濱門麻美子)が
  担当してくださることになったのだが、
  なかなかまとまらず、進めることができなかった。
  その間、辛抱強く待ち、励まし、完成まで伴走してくださった。

                     (pp.269-270)

  
  岩波新書・968円=6刷11万部。2020年12月刊。
  ビジネスで英語を使う人をはじめ、
  英語教育に携わる人にも好評だという。
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  (トーハン調べ 新書部門<3月29日〜4月4日)


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