岸本佐知子『死ぬまでに行きたい海』(スイッチ・パブリッシング、2020)

高橋源一郎飛ぶ教室」(NHKラジオ第二/金曜21:05〜21:55)
二コマ目【きょうのセンセイ】で紹介されて興味を持った。
岸本佐知子『死ぬまでに行きたい海』
スイッチ・パブリッシング、2020)を読む。



エッセイのつもりで油断して読んでいると、
いつの間にやらミステリーに変身していて異界に連れ去られる。
そうかと思うと、心のどこかにあった思いを作者独特の言葉で表現されて、
「そうなんだよなぁ」と深く共感する。
気に入った文章を一箇所だけ書き留めておく。


  この世に生きたすべての人の、言語化も記録もされない、
  本人すら忘れてしまっているような些細な記憶。
  そういうものが、その人の退場とともに失われてしまうということが、
  私には苦しくて仕方がない。
  どこかの誰かがさっき食べたフライドポテトが美味しかったことも、
  道端で見た花をきれいだと思ったことも、
  ぜんぶ宇宙のどこかに保存されていてほしい。

                            (p.88)


  初出:

  雑誌『MONKEY』vol.1(2013年10月)〜vol.22(2020年10月)
  (連載「死ぬまでに行きたい海」第1回〜第22回)

  編集長 柴田元幸(岸本に原稿を依頼した人)
  編集  新井敏記(不思議で魅力的な連載タイトルを考えた人)
  装幀  宮古美智代


(翻訳家としての岸本の素晴らしい仕事。ショーンの英文と対比して読んでみたい)