<てまえどり>ということばも貢献しているでしょう(飯間浩明)

クリッピングから
朝日新聞2022年3月19日朝刊別刷be
街のB級言葉図鑑(飯間浩明
<てまえどり> 名詞はインパクトが大きい


  コンビニの棚に<てまえどり>という表示が現れたのは
  2021年6月のことです。
  棚の食品を奥から取ると、手前が売れ残り、食品ロスにつながる。
  「だから、手前から取りましょう」というのです。


  耳の痛い表示でした。
  「奥から取ったほうが新鮮」と、
  パンでも牛乳でも、奥の品物に手を伸ばすのが
  生活の知恵だと心得ていました。
  でも、それが食品の大量廃棄に手を貸す結果になっていたとは。


  「食品は手前からお取りください」という文の形なら、
  そんなに注意を引かれなかったかもしれません。
  一方、<てまえどり>と名詞の形になっていると、
  「何のことだろう?」と関心が向きます。
  名詞はインパクトが大きいのです。
  (略)


  私も買い物のたびに<てまえどり>を意識するようになりました。
  法整備などが進んだこともあり、
  食品ロスは少しずつ減っているそうです。
  <てまえどり>ということばも貢献しているでしょう。

              (国語辞典編纂(へんさん)者)


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(飯間さんたちのチームが編纂する国語辞典。第八版が出ました)