江國香織「2022 この三冊」

クリッピングから
毎日新聞2022年12月10日朝刊
「2022 この3冊(上)」


年末のお楽しみのひとつが「今週の本棚」総集編です。
江國香織さん(作家)の選書に目が止まりました。
自分の好みと近かったからかな。


  ① パンとサーカス 島田雅彦著(講談社・2750円)

  ② すべての月、すべての年 ルシア・ベルリン作品集
   ルシア・ベルリン著、岸本佐知子訳(講談社・2640円)

  ③ ドリフターズとその時代 笹山敬輔著(文春新書・968円)



  ①はとにかくおもしろい小説。
  冒頭からひきこまれ、読む愉悦がぎちぎちに詰まった一冊だった。
  国家レヴェルの事象が言葉のみを使って重層的かつ軽妙洒脱(しゃだつ)に、
  アクロバティカルに描かれる。その優雅な作法! 
  小説的アプローチとはつまり洗練である、
  ということがよくわかる。



  ②は飾らない、余分なものの一切がそぎおとされた短編集。
  小説内の何もかもが映像を伴って一読胸に刻まれてしまう。
  色、光、血肉を備えたすべての登場人物たち。
  この人の短編は時間を切り取るのではなく出現させる。
  だからその都度新鮮な生命力を持つ。



  ③を読んで、
  私はほんとうにいろいろなことが腑(ふ)に落ちた。
  舞台、テレビ、時流、
  そしてドリフターズという唯一無二の存在。
  誠実でクリーンな好著だった。



この特集の隠れた見せ所は編集記者の割り付け。
誰の記事をどう並べるかで印象が変わる。
ちなみに江國さんの下には
池澤夏樹さん(作家)と橋爪大三郎さん(社会学者)。
上の名前が見えない箱は
沼野充義さん(名古屋外国語大教授・スラブ文学)です。