鈴虫鳴けり番台辺り(塩田淳文)

クリッピングから
讀賣新聞2023年10月23日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  吸い過ぎは毒だと写真に言い聞かせ
  好みの煙草二本だけ置く

           東京都 伊藤直司


    【評】写真は遺影だろう。
       もう思いきり吸わせてやってもいいのだが、
       そうしないところに、
       生前の思い出や作者の愛情が滲(にじ)む。


  十五年前までありし湯屋の地に
  鈴虫鳴けり番台辺り

        柏市 塩田淳文


  親ゆびと人差しゆびがあちこちで
  ブラインドひらく雷の午後

         東京都 浅倉修


今週のもう1首。


  「電源切ります」と言うオーブンに
  「勝手にしろ」と返す秋の夜

           大阪市 原 拓



(10月30日発売予定。万智さんの新歌集『アボカドの種』)