三十分からだに夕日を染み込ませ(井原茂明)

讀賣新聞2023年11月27日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな3首、抜き書きします。


  週末の予定をきみに訊いてから
  もう貸切の胸の一角

          奈良市 toron*


    【評】約束をしたわけではないけれど、
       きみの予定に合わせて、
       心がスタンバイしているのだろう。
       そんな気分をとらえた「貸切」がユニークだ。


  インクだけ先に乾いてしまうから
  手紙の中に泣かないわたし

         朝霞市 桐島あお


    【評】インクを乾いても涙は乾かない。
       手紙の中では泣いていなくても、
       現実では泣いている。
       結句で「泣かない」と言いながら、
       こんなにも泣いている歌なのだ。
       その切なさ。


  三十分からだに夕日を染み込ませ
  養老川の川土手あるく

          市原市 井原茂明


    【評】しみじみとした散歩の歌。
       朝日なら浴びるイメージだが、
       夕日は染み込むのだ。
       「養老川」という固有名詞が効いている。


自分が歌を詠むとき
目標になりそうな歌をあと1首。


  カメムシを追い出すまでの一時間
  なんだかすごく返してほしい

           東京都 大岩真理




神田神保町の貸棚共同書店PASSAGEにサイン本が入荷しましたが、早くも完売!)