大人たちの低い視界にとどくまで(葉村 直)

クリッピングから
讀賣新聞2023年12月4日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  大人たちの低い視界にとどくまで
  この初雪はぼくたちのもの

         豊中市 葉村 直


    【評】物理的には大人のほうが視点は高いけれど、
       子どもの視線は空を自由に飛び回る。
       まっさらな心と目で見る初雪の美しさ。
       下の句、万能感が伝わってきて素晴らしい。


  あのひと、と開かれているひらがなの記憶を
  僕が知ることはない

              東京都 吉田 懐


    【評】耳で聞くぶんには同じなのに
       「ひと」と聞こえるのだろう。
       「あの人」よりも「あのひと」は、
       とても主観的な感じがする。
       自分と出会う前の歴史に、
       関わりようがない寂しさ。


  みんなって聞こえるたびに身構える
  その中にぼくは入ってますか

          埼玉県 玖嶋さくら


    【評】日常的な言葉でも、
       受け取る人によっては、身構えてしまうことがある。
       当事者の声としての表現が、
       切実さと陰影を与えてくれる。