「#85 読んでいいとも! ガイブンの輪」@本屋B&B(2023年12月23日配信)で
出席者のひとり、岩波書店の女性編集者が激推ししていて読みたくなった。
(司会進行:豊崎由美 <書評家>)
ク・ビョンモ/小山田園子訳『破果(はか)』(岩波書店、2022)を読む。
(装丁:須田杏奈)
「訳者あとがき」から引用する。
六五歳の誕生日を迎えたばかりの主人公・爪角(チョガク)は、
一見小柄で平凡な老女でありながら、
実は四五年のキャリアを持つベテラン殺し屋だ。
誰かにとっての駆除すべき害虫、
退治すべきネズミを消す請負殺人は「防疫」と呼ばれ、
彼女はかつて、防疫業界で名を知らぬ者のいない存在だった。
迅速、正確にターゲットを仕留める高い技術と、
人の命を捻りつぶすことに一かけらの逡巡も後悔も抱かないプロ意識。
自分の胎内にいた子の父親も殺めた彼女にとって、
ターゲットはもとより、遺族の人生など眼中にはない。
そうだったはずが。
老境に入って、爪角の歯車は少しずつ狂い始める。
身体がいうことをきかなくなったのは致し方ないとしても、
心までもが、いうことをきかなくなる。
最低限の荷物しか置かなかった部屋で捨て犬を飼い始め、
よろめく老人に手を貸し、
ターゲットを苦しめずに殺す方法に頭をめぐらせる。
そして、とうの昔に捨て去ったはずの恋慕に近い感情までもがよみがえる。
そんな爪角になぜか敵意を剥きだしにするのが、
同じ防疫エージェンシーの若き殺し屋、トゥだ。
トゥは彼女が情をかけたものを次々に破壊しては挑発する。
その真意に気づけないまま、ある事件をきっかけにして、
爪角はトゥと人生最後の死闘を繰り広げるーー。
(pp.268-269)
タイトルの『破果』は韓国語で「파과(パグァ)」と書き、
「傷んでしまった果実」と「女性の年齢の一六歳」の二つの意味にとれる。
たとえ肉体は劣化しても、一六歳のみずみずしい心が消えるわけではない。
ダブルミーニングでもあるタイトルは、
老いへの偏見に向けられた強烈な一撃とも読める。
(p.272)
(編集担当:堀 由貴子、北城玲奈)
爪角は僕にとって、ゴルゴ13、仕掛人梅安に匹敵する
記憶に残る殺し屋になった。
(著者/訳者の他の作品も連読したくなった)
(イベントで司会進行を務めた豊崎由美さんの最新刊)
(著者は韓国文学を日本人読者に精力的に紹介し続けている)
(ハングル版原書。装丁は日本語版の方が断然いい)