政治資金収支報告書を調べ直し、東京地検に刑事告発した人

クリッピングから
朝日新聞2024年2月24日朝刊別刷be
「フロントランナー」公権力の暴走を止める
上脇博之(かみわき ひろし)さん(65歳)神戸学院大学教授


  トレードマークのバンダナは大学浪人の頃から。法廷でも外さなかった。
  「職員は注意したけど、裁判官はまあいいじゃないですかって」


  事件の発端は2022年11月の
  「しんぶん赤旗日曜版」のスクープだった。
  その報道をもとに政治資金収支報告書をこつこつ調べ直し、
  東京地検刑事告発したのがこの人。
  特捜部の捜査のきっかけをつくった。


  政治とカネの問題を追及する第一人者。
  最初の告発は00年、
  新進党が分党とした6党の政党助成金の受給問題だった。
  01年には自民党本部の
  組織活動費名目の使途不明金の問題も告発した。
  「正確に覚えていないが、過去100件以上は告発してきた」と話す。


  自民党・薗浦(そのうら)健太郎衆院議員の
  闇政治資金パーティー問題の告発では、特捜部から連絡があった。
  その際、「先生の告発には別件もあるから」と言われた。
  「いつもは連絡なんてこない。
  薗浦前議員の次は、告発していた派閥の資金パーティー問題をやるぞ、
  と伝えたかったのかもしれない」
  (略)


  ーーーきっかけは赤旗でした。


  編集部からコメントを求められた。
  話を聞いて「これは重大な指摘だ」と。
  ほとんどの告発のきっかけは新聞や週刊誌の報道。
  コメント取材で問題を知り、
  公開情報や資料を調べ直し告発状を書く。
  メディアの役割は重要です。
  (略)


  ーーー捜査をどう見ますか。


  検察が本気で自民党とやり合うのかどうか注視していたが、
  トカゲのシッポ切りで終わらせた印象です。
  裏金づくりは会計責任者の独断ではできない。
  派閥の幹部が主導したはずなのに不起訴にするのは、
  巨悪を眠らせることになる。


  茂木派と岸田派の裏金のプール、
  二階派の裏金のプールとキックバックについてはすでに告発した。
  安倍派の裏金のプールとキックバックはこれから。
  大勢の議員らを順次告発していきます。
  (略)


  ーーー有権者が投票に行かないから悪いという声もある。


  まずは制度の問題。
  いまのような選挙制度では
  「どうせ選挙に行っても変わらない」とあきらめてしまう。
  有権者を批判するのは酷です。
  完全比例代表制* にしたら
  政権交代も起こりやすくなるから、投票率が高まる。
  それでも投票に行かなければ、それは有権者の問題です。
  (略)


               (文・大嶋辰男 写真・外山俊樹)


    *(オランダ)議会と選挙制度・政党

     国会は二院制で第一院(75議席。日本の参議院に相当)と
     第二院(150議席。日本の衆議院に相当)からなる。
     第一院の議員は州議会議員による間接選挙で選ばれ、任期は4年。
     第二院の議員は全国区での完全な比例代表制による直接選挙で選ばれる。
     任期は4年だが議会解散により短縮され得る。
     地方議会(州議会および地方自治体議会)議員選挙も完全比例代表制による。


     各政党の候補者は党首以下順位を付けた候補者名簿に公示され、
     選挙人は政党名または候補者名のいずれかを選んで投票する
     (非拘束名簿式比例代表制)。
     (略)

 
     選挙が完全比例代表制なので支持者が比較的少なく
     全国的に分散している小政党でも議席獲得の機会が大きい。
     とくに1970年代には市民運動に由来する多くの小政党が議席を獲得した。
     世界に前例のない斬新な法規や政策が実現した背景であるともいえる。
     その具体例として麻薬(ソフトドラッグ)や性産業に対する容認策、
     堕胎法、安楽死合法化、同性婚合法化などがあげられる。

       "オランダ", 日本大百科全書(ニッポニカ),
       JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2024-02-27)