美術館を出て日常に再入場す(武藤義哉)

クリッピングから
讀賣新聞2024年6月11日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  たけのこの季節になればどこからも
  こだまのようにたけのこ届く

       和歌山県 助野貴美子


    【評】いただいたタケノコが、
      仲間に呼びかけたかのように、また別のタケノコが届く。
      「こだま」の比喩がユニークだ。
      二回繰り返した「たけのこ」も、この比喩と響きあう。


  再入場できぬと書かれた美術展を出て
  日常に再入場す

          東京都 武藤義哉


    【評】美術展という非日常の空間。
      再入場できぬという言葉が、
      それをくっきり示している。
      と同時に、今までは日常から退場していたんだな
      という気づきが、まことに面白い。


  「ヒロさんがいいねしました」
  この惑星(ほし)に今起きている人がいること

             三田市 藤原栄美子


    【評】深夜か早朝か。
      SNSの投稿に反応してくれた人がいた。
      かすかだけれど確かな連帯感。
      SNS時代の情緒だなと思う。


今週のもう1首。


  青春をアオハルと呼ぶ娘から
  青虫めいた匂いしたたる

      東京都 坪田礼子



(書評家/作家・スケザネさんの俵万智作品研究が秀逸)