甘夏の香り漂う三叉路で(常田瑛子)

クリッピングから
讀賣新聞2024年6月17日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  灯台は今日も光のラケットで
  水平線へ夜の壁打ち

      横浜市 山田知明


    【評】誰もが見たことのある光景が、
      言葉で捉えなおされることで新鮮に見えてくる。
      あの光の投げかけは、壁打ちだったかと。
      孤独でありながら、返しを待つ姿である。


  内蔵を捧げるように寝転べば
  流星群に射抜かれる夏

       横浜市 中村 杏


    【評】長時間星を眺めるには、
      なるべく周囲に何もないところで、
      仰向(あおむ)けになるのがいい。
      その無防備な様子を捉えた上の句が鮮やかだ。
      結句の「夏」が一首の柄を大きくした。


  夕方の職員室のコーヒーが
  教師をただの大人に戻す

      下関市 猫背の犬


    【評】場所は職員室だから、まだ存在としては教師である。
      一瞬の安らぎに見せる表情の変化を
      「ただの大人」とした批評性が魅力。


今週のもう1首。


  甘夏の香り漂う三叉路で
  もうふたりとも半袖だった

     宇部市 常田瑛子