海部美知「パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本」を読む。
シリコンバレー在住の筆者がブログで生んだキーワード、
「パラダイス鎖国」を軸にこの頃の日本を語る。
清潔で安全で質の高い生活ができる日本に暮らしていると
わざわざ外国に出て苦労などしたくなくなる。
僕たち日本人のそうした心情を
「パラダイス鎖国」と名付け読み解いていく。
気持ちはいいが、そこはかとなく閉塞感があり、
物事が大胆に解決していかない状況が
「パラダイス鎖国」という言葉ひとつで
突然分かったような気がするから不思議だ。
パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本 (アスキー新書 54)
- 作者: 海部美知
- 出版社/メーカー: アスキー
- 発売日: 2008/03/10
- メディア: 新書
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「5. 国民全員が享受できる基本的なもの以外では、
整備や変化が進まない。
高等教育整備、各種権利保護、個別の産業に対する対策など、
議論の分かれやすい点、時代の変化によりやり方を変えていく
必要のある点については、なかなか進まない。(pp.76-77)」
そうした特徴は日本国だけでなく
自分が所属する組織や周辺の組織にも実に良く当てはまる。
しかし、海部は決してペシミスティックに
日本の社会や日本人を評論して終わることはない。
本書のあちらこちらに未来への希望の光が差している。
僕が具体的でおもしろいと思ったのは例えばこんな箇所だ。
「そして、いま何をすればいいかがわからないときは、
とりあえず英語を勉強したらいい。
どれでも外国語ができればトクだが、
英語は世界で最も潰しのきく万能スキルである。
どこの国でもどの分野でも、何かしら役に立つ。
ロングテール戦略の情報獲得にも使え、
ぬるま湯を求める世界が広がる。(pp.172-173)」
「ぬるま湯」は海部のキーワードでは「厳しいぬるま湯」であり、
ポジティブな意味で使われている。
彼女の住むシリコンバレーも
人に対して厳しくも優しい「厳しいぬるま湯」なのだ。
未知の領域を切り開くために試行錯誤する人間が
そこでは失敗してもやり直すことができる。
手軽な新書だが中身は濃い。
海部が「あとがき」で書いた通り
food for thought(思考のための食べもの)である。
これからの日本や、自分の時間の使い方を考えるとき、
「思考のための食べもの」となる一冊を。
Tech Mom from Silicon Valley
http://d.hatena.ne.jp/michikaifu